第14話 二週間訓練漬けになっていた兄と私
私と兄は最初、基礎メニューを一緒に熟し、そのあとはそれぞれ分かれて兄は戦闘訓練を、私はギフトの訓練をすると云う一日を送っていた。念の為乗馬の訓練もあった。
孤児院の子供達には、引き取り先が決まった、ただ兄妹揃っての引き取りは難しく、お試しで少しの間暮らしてみる事になった、と云う事にしておいた。私がギフトで、兄妹揃って領主の私兵になったなどとはとても云えない。
一週間で兄と私のメニューは完全に別になった。基礎メニューは本当に基礎の基礎でしかなく、兄はそれより一つ上のメニューを熟す様になったのだ。一方私はその基礎の基礎ですらついて行くので精一杯。その上ギフトの訓練として氷の礫を如何に早く多く大きく作れるか、どの程度離れていても空間を冷やせるか、と力を酷使する日々が続き、バテにバテていた。今までギフトをこうも使う事が無かったので気付かなかったが、ギフトの使用には気力も体力も随分と使う。
私達は領主の家にある私兵用の宿舎の様な所で寝泊まりしていた。食事の用意などは領主の使用人がやってくれるので私達は訓練に集中する事が出来た。お風呂も大きな浴場があり、広い湯船に入る事が出来る。おかげで体力の回復にも努める事が出来た。ただ、女の兵は私一人なので貸し切り状態で入れるのが嬉しい様な、申し訳無い様な。前世では長風呂が趣味の一つだったが、この世界での風呂が烏の行水だった事も手伝い、あまり長く浸からない様にしていた。
食事は当然領主と一緒には摂らない。宿舎のキッチンで使用人達が作ってくれる。
ちなみに宿舎は私兵用の物と使用人用の物と別々にあった。どうりで広い敷地な訳だ。
アースさんは、最初私達が気に入らないと云う顔をしていた。が、一週間も経つと態度が一変した。
「お前らは案外根性がある。シリウスは剣の筋が良いし弓も上手い、スフィアは頭が切れる。子供にしとくのは勿体無いくらいだ」
てっきり一日で逃げ出すと思ったんだがな、と笑って云うくらいだ。最初はどう扱って良いか分からないと顔に書いていた他の兵達も、アースさんのそんな態度に少しずつ私達と話をする様になった。どうも逃げ出す前提でかなり厳しいメニューを組んでいたらしい。
剣は兎も角、弓は村に居た時に狩りに使っていたから慣れていたのだろう。
弓なら中距離だ、直接危険には触れずに済みそうだし、私だって出来るかもしれない。そう云ったら、
「お前はギフトの訓練に集中しろ」
とアースさんに云われてしまった。無念。
私兵の中には奥さんや子供まで居る人も居た。家族は町で暮らしている人も居れば少し離れた村で暮らしている人も居るらしい。彼らは所謂出稼ぎで私兵をしているのだ。中には元々は公的兵力として勤めていた人も居て、より良い給料や待遇を求めて私兵となったと云う。だが私兵は退職後の再就職の世話などは基本的には無いので、公的兵力と比べて安定性には欠けている。現役で居られる内に如何に稼げるか、ある種ギャンブルに近いかもしれない。
こう云う仕事をしていると中々家族には会えないと云う。その所為か、彼らは私達に、自分の弟妹や子供にする様に接している節があった。勿論訓練中は厳しいし、例え転んでも決して手を差し伸べてはくれないが、訓練を終えれば共に語り、笑い、泣いたりもした(兄なんて風呂で背中の流しっこまでしたらしい)。家族も友も隣人も無くした私達に、彼らはとても温かだった。
彼らは私達の境遇に酷く同情的だった。人々を守る仕事をしているからかもしれないし、元公的兵力だった正義感かもしれない。中には昔の戦争で故郷を失った人も居て、一歩間違えば自分も盗賊に成り下がっていたかもしれないと、やってもいない罪を謝る人まで居た。正直に云えばもっと反発があるものだと思ったが、意外とすんなり受け入れてもらえたのはそう云う理由もあったんだろう。胸がしくしくとした。
二週間経つ頃には、兄は随分と逞しくなっていたし、私も少し筋肉が付いていた。ギフトは四十もの拳大の氷塊を自在に操れる様になっていたし、隔てる物さえ無ければ任意の空間を一気に氷点下まで下げる事が出来る様になっていた。どちらも三十メートル程度の制限付きだが。
盗賊の塒は洞窟の様な場所らしい。だから最初はその空間を一気に氷点下まで下げ、動きを鈍らせて捕らえると云う方向で作戦を立てようとした。しかし万が一捕らわれた子供達が居た場合、真っ先に凍死の可能性があるのはその子供達だ。そうでなくても凍傷、酷ければその部位が壊死してしまうかもしれない。
もしも盗賊がそうなっても因果応報だが、子供達がそんな事になっては私はきっと立ち直れない。だから、盗賊を巣穴から誘き出し戦闘で以て制圧すると云う方向になった。私の氷塊で足を狙い、動きが鈍った所を制圧する。それなら私の役目は二十メートルも離れた所から、それも馬上からやればいざと云う時逃げ易い。
あとは相手のギフテッドをどうするかが問題だった。
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