第13話 隊長から睨まれても引かない兄と私
契約に際し、契約終了後の身の振り方も考えねばならないと云って院長もついて来てくれた。満十八歳がこの国での成人だが、私達は四月生まれ。前世では四月から新年度だったが、この国では一月から、新年からが新年度だ。兄は成人まで二年、私は五年だが、院を出るのはその翌年になる。つまりそれぞれ十九歳になる年に孤児院を出るのが本来なのだ(ちなみに年末年始は色々と忙しいので、実際に院を出るのは年が明けて少し経ってからになる)。だから、私兵としての契約期間が短ければ、その後また院に戻る事も選択肢の一つとして考えなくてはならないのだ。
話し合いの末、私達の契約は一先ず盗賊を討伐しするまで、と云う事になった。攫われた子供達を保護するまで、と云うのが私の希望だったが、流石にまだ売られていないと云う事は有り得ないから、年内に終わるかも怪しいとユラナスさんに云われ、更に兄にも長く危険にさらしたくないと云われ諦めた。
とは云え子供達の行方は公的兵力も他の私兵も動いてくれると云う事だから、少しは安心出来る。盗賊の頭を生きたまま捕らえる事が出来れば、どこに売ったかなども分かるのだから、生きてさえいれば何とかなるだろうと云う事だった。……それはつまり、既に死んでいる子も居る可能性があると云う事だ。
私がもっと早く動いていれば。そう考えずには居られなかったが、今すべき事は後悔ではない。前を向かねば。
領主はもっと長い契約を望んでいる様だったが、ユラナスさんとそれから院長にも反対されて諦めていた。
ただ、盗賊を討伐した時点で契約を延長する可能性がある、と云う話にはなった。攫われた子供達を助けるのに私の力が必要かもしれないからだ。
何にせよ二年も五年も契約を続ける事は無さそうだ。私と兄は、契約が終了したら孤児院に戻ろうかと考えた。
それから報酬の話になる。成功報酬で贅沢しなければ半年くらいなら二人で暮らせそうな額を提示された。勿論衣食住は別だし、更に別に毎月一定金額支給される。私達はそれで了承した。ユラナスさん曰く、充分な額だろう、との事だった。
粗方話が纏まり、では契約書を、と云う段階で突然応接室の扉が開かれた。室内の全員がその方向を見遣る。日焼けしたごつい中年の男性が立っていた。
「アース! どうしたんだ、突然」
領主が云う。彼の名はアースと云うらしい。アースさんは怒りを隠そうともせずずかずかと室内に入って来ると、きっと私を睨んだ。え、私? 何かしました?
「領主様、こんな子供を雇う事は反対です。隊の士気にも関わるし、何より使いものになるかも怪しい」
ああ、そう云う事か。納得した。
「彼女はギフテッドだ。それに年齢よりずっと大人だよ」
「しかし、素人です。そして兄はギフテッドですらないときている」
今度は兄を睨むアースさん。兄を馬鹿にされた気がして、私はむっとした。だが、彼の云う事は尤もなので何も云い返せない。
「二週間ください。それで妹を守れる様になります、なってみせます」
一歩前に出て兄が云った。何だか頼もしい。しかし、戦闘訓練なんてした事無いだろうに、二週間で何とかなるのだろうか。だがそれ以上かけては子供達の安否が気にかかる。既に一ヶ月が経過しており、二週間と云うのは恐らくぎりぎりのラインだ。ちなみに一週間はこちらでも七日間である。
「私も二週間で皆さんの足手纏いにならない様努めます。どうか宜しくお願い致します」
兄と揃って頭を下げる。ちらりと様子を窺うと、鼻白んだ顔が見えた。
「経験は」
「村に居た頃、冬場に弓矢で狩りをしていたのと……ユラナスさんに、剣の振り方を習っているくらいしか」
剣の稽古をしていたなんて初耳だ。私がギフトの特訓をしていた間の事だろうか。何故そんな事を……。
「私は何の経験もありません。ギフトの訓練を独学で少しした程度です」
アースさんは返答を聞くと顎に手をやり考える様な仕草を見せた。お? 思ったよりちょろい?
「お前らが前線に立たないで済むプランを考えよう。だが、……兄の方には戦闘訓練を受けてもらう。幾ら前線に立たずともいざと云う時が無いとも云い切れん。妹には基礎体力だけは付けてもらう。それとより一層のギフトの訓練を」
「シリウスです」
「私はスフィアです」
「……シリウスは隊の戦闘訓練、スフィアには個別のメニューを考えてやる。明日からだ。良いな!」
私と兄は、声を揃えてはい!と答えた。
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