第12話 領主の私兵になる事になった兄と私
ユラナスさんの立場は公的兵力だ。所属は国になる。前世的な云い方をすると公務員に当たる。なる為には成人、つまり十八歳になってから二年間専門の学校に通う必要があるそうだ。その学校は少し大きな町に行けばあり、この町にも当然ある。そして給料は国から支払われる。
それと違って私兵と云うのは私的に個人と契約してなるものだ。領主であれば多少は持っているものらしい。学歴などは関係無い。そして給料は契約した個人から支払われる。領主の私兵となれば領主から支払われるのだ。
それに、私と兄が、なる?
私達は思わず顔を見合わせて、それから領主を見て、最後にユラナスさんを見た。領主は至って真面目な顔をして、ユラナスさんは頭痛が痛いみたいな顔をしていた。
「失礼ですが、アステロイド様。何を考えてらっしゃるのです。彼らはまだ未成年ですよ」
「だから私兵にするのだ。仮に成人していたとしても、公的兵力として採用するには最短で二年かかる。そんなには私も、そして彼女も待てまい」
その通りだ。二年の間にどれだけ被害が出るか知れない。
領主は手を組んでそこに額を当てた。
「私も焦っているのだ。盗賊はどうにかせねばならん。しかし力が無い。……だが、無いと思っていた力が目の前にある! ……私だって、子供に危険な事はさせたくない。しかしその子供は、盗賊に全てを奪われたんだぞ。そしてその盗賊への罰を望んでいる」
そうだろう、と、領主の目が云っていたので頷く事で答える。
「お兄ちゃん、私、私兵になりたい。……でも、お兄ちゃんまで……」
なる必要はないよと云いかけたところで、兄がこちらを睨む様に見た。否、涙を堪えている顔をしていた。
「お前がなるなら、俺もなるに決まってるだろ。お前を守るって母さんと約束した。そうじゃなくたって、俺はお前のお兄ちゃんなんだ。お前を守るに決まってるだろ!」
「お兄ちゃん……」
視界が滲む。涙を振り切って、領主の方を見た。
「宜しくお願いします」
兄と二人、深々と頭を下げた。
隣でユラナスさんが、額に手を当ててあっちゃーと云う様な顔をしていた。
契約をするに当たり、ユラナスさんが後見人になる事になった。孤児院の院長に頼もうかと思ったのだが、聖職者が個人の後見人になる事は出来ないのが決まりなのだそうだ。そうじゃなくても、院長の事だ。私達が私兵になる事には反対するだろう。ただ、院長に何の断りも無く私兵となる契約をする訳にはいかないと全員の意見が一致したので、私達は今日の所はこのまま帰り、ユラナスさんから院長に今回の件を話してもらう事になった。そして必要があれば、領主直々に院長を訪ねるとも云ってくれた。
日が暮れようとしていた。私と兄は夕食の支度がある事を思い出し少し慌て、領主に別れを告げ、ユラナスさんと共に孤児院へ向かった。
私と兄が食事の支度をしている間にユラナスさんは院長に事情を話してくれていて、私と兄は食後の片付けを免除され院長室に呼び出された。
「後悔は無いね」
呼び出した私達に院長はそれだけ問うた。私と兄はそっと手を握り合い、
「はい」
と、力強く頷いた。院長はじっと品定めする様に私達を見詰めたあと、小さく溜息を吐いた。
「決意は固い様だ」
頑張りなさい、そう云われて、院長と私達は握手を交わし、契約が固まり次第ここを出る事が決まった。
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