第11話 領主の家で値踏みされている兄と私

 私達は町の奥に建つ大きな家の前に立っていた。その家はとても立派で、その敷地には私の村の家が全部入ってしまいそうに思えた。立派な門があり、城と云っても差し支えない様に見える。

 伝言を持って来たユラナスさんの同僚に家の前まで案内され(ユラナスさんも領主の家を知ってはいるのだけど)、そこからは領主の使用人にバトンタッチ。玄関ホールを通って応接室へと連れて行かれた。とても立派な家具が設置されていて、どんどん緊張が高まっていく。私はそわそわとしながらユラナスさんの真似をしようと様子を窺っていた。

「そこにかけなさい」

 部屋の中で待っていた中年の男性が云う。彼が領主だろうか。ロマンスグレーの中々格好良い人である。背が高くしゅっとしている。

「失礼致します」

 ユラナスさんがそう云って頭を下げるので、私と兄も真似た。そしてソファにユラナスさん、兄、私の順で座る。ふかふかでちょっとお尻が弾んで、こんな状況じゃなきゃ楽しくなるのに……と思った。

 立っていた領主は私達を一瞥すると、私の向かいに来る位置に座る。

「ユラナス君、ご苦労。君達がシリウス君とスフィア君だね。私はこの辺りの領主を勤めるマーズ・アステロイドだ」

 労を労われユラナスさんが頭を下げる。私と兄は、それぞれ名乗って頭を下げた。

 この町の人達は殆どの人が苗字を持たないが、領主には苗字ある。当然かもしれないが、それだけでとても偉い人なのだと実感出来た。

「早速だが、本題に入ろう。君達の村を襲った盗賊だが、我々も何とかせねばと思っている。しかしその為の力が無いと云うのが実情だ。そこで、ギフテッドであるスフィア君の力を借りたく思う」

「しかしアステロイド様、それはあまりに危険です。彼女はまだ十三になったばかりです」

 ユラナスさんが云うと、領主は掌を彼に向けて制した。ユラナスさんは浮かしかけた腰をソファにおろす。兄も同意見らしく、険しい目で領主を見ていた。

「勿論、私とて子供を危険な目に遭わせたいとは思わん。……スフィア君、君の力はどの程度のものかな」

 突然話を振られて少しどきっとする。けれどこれは想定内の質問だった。

「……掌大の氷の礫を二十程同時に生成して、ある程度自由に動かす事が出来ます。それから空間を強く冷やす事が出来ますが、それは私の居る場所と空間的に繋がっており、かつ距離的にも然程離れていない事が条件です」

 空間を冷やすのは村に住んでいた頃に良くやった事だ。夏場涼んだり、物を冷やしている内に出来る様になっていた。

 答えると、領主は少し驚いた様な顔をした。

「君は本当に十三歳になったばかりかね。随分しっかりした受け答えをするな」

 やってしまった。私はあはは……と笑って誤魔化そうと試みる。領主は少し怪訝そうな顔をしたが、まあ良い、と云って本題に戻る事にした様だ。

「空間を強く冷やせるのなら、盗賊の動きを鈍らせる事も可能だろう。距離的に離れていないとは、具体的にどれくらいだ」

 領主は私が考えた事と同じ事を考えたらしい。けれど私は少し困ってしまった。

「測った事が無いので何とも……」

「ある一点だけを冷やすのか。それとも目的地点までの通過地点全ても冷やすのか」

 これらの質問までは想定していなかった。試した事も無い。

「それもやった事が無いので分かりません」

 正直に答えるしか無かった。

「でも、私やりたいです。ユラナスさんと兄は反対でしょうけど……」

 領主が顎に手をやり考え込む仕草をした。そのまま数秒が経って、領主はじっと私の目を見詰めた。

「君は気が長い方かね」

「……短気ではないと思っています」

 領主の視線が今度は兄へ移る。

「君は妹の気質をどう思う」

「……基本的には穏やかです。ただ、カッとなり易い所があります。けど、コツコツ物事を積み重ねるのは得意だと思いますし、協調性もあります」

「スフィア君、兄の気質をどう思う」

「……忍耐強く優しい人です。責任感が強くて、リーダーシップもあります」

 領主はまた考え込む様子を見せた。それから私と兄を見て、

「二人共、孤児院を出て私兵になる気は無いか」

 と云った。

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