第10話 祭り中に突然領主に呼び出された私

 数日後、春祭り本番がやって来た。夕方から前夜祭が始まり、次の日は一日本祭、更に翌日も夕方まで本祭が続き、夕方から後夜祭が始まり夜明けと共に祭りは終わる。教会で料理を振る舞うのはこの内の前夜祭なので、その日は朝からてんてこ舞いだ。けれどその片付けさえ終われば私達は自由で、子供なので夜の間は外出が許可されないが、昼間の間は本祭に参加出来る。少額だが普段から支給される小遣いを皆この日の為に貯めていて、料理の準備の間も、振る舞っている間もそわそわしていて微笑ましい。

 私と兄も、一月分だけだが小遣いを貰っているのでそれを握り締めて一緒に本祭に行くつもりで居た。けれど、それぞれ年の近い同性の子に祭りへと誘われて、私達は別々に祭りに行く事にした。一緒に行くのは明日でも良い。

 私達の村がギフテッドを含む夜盗に襲われた事は、子供達も知っている。皆気を遣ってくれて、けれど腫れ物に触る様な態度では無く、心が安らぐ様な接し方だった。多分、皆、何らかの事情があって孤児院に来ているからだろう。事情のある者への接し方が自然と分かっているのだ。……年少の子達は、多分そこまで考えては居ないだろうけれど。

 祭りの最中も皆優しく、小遣いの少ない私に幾つか屋台料理をご馳走してくれた(あとで訊くと兄も同じだったそうだ)。私は夏祭りまでに小遣いを貯めてみんなにお返ししたいと強く思った。

 本祭の二日目、約束通り私と兄は一緒に祭りに行った。小遣いは殆ど残って居なかったので、飲み食いはせずにぶらぶらと祭り一色の町を見て回った。途中、ユラナスさんを見かけた。何やら探している風だったので、私達は顔を見合わせたあと、彼に声をかけた。何か手伝えないかと思ったのだ。

「ああ、二人共。ここに居たのか」

 その口ぶりからして、ユラナスさんが探していたのはどうやら私達らしい。また顔を見合わせてから、ユラナスさんの顔を見上げて首を傾げた。

「実は、領主様がスフィアちゃんに会いたいと云っているんだ。スフィアちゃんのギフトに興味があるらしい」

 周囲を見回し、この騒がしさなら周囲には聞かれないと判断したのだろう。ユラナスさんはかがんで私達に高さを合わせると、声を潜めてそう云った。私と兄はまた、顔を見合わせた。

 領主へのギフテッド誕生報告義務は無い。だから私の事は、村の中だけの秘密だった。この町で私がギフテッドだと知っているのはユラナスさんとあの時一緒に居たもう一人の門番さん、プルートさんと私を診てくれた医師、聖職者で孤児院の院長とその補佐二人、そして私達くらいだ。何故領主へ漏れたのだろう。

「人の口に戸は立てられぬ、と云う事ですね……」

 はふり、溜息を零すと今度はユラナスさんと兄が顔を見合わせた。

「君は本当に子供らしくないね」

 そう云われていやいやあはは……と笑って誤魔化すのだった。

 一孤児が、領主からの呼び出しを断る訳にはいかない。しかし私はまだ十三歳(孤児院で誕生日を迎えたので、もう十二歳ではない)。私より少し早い日に生まれ既に十六歳になっていた兄と、そして今日は非番のユラナスさんが同席する事を条件に出して、領主からの返答を待つ事にした。

 私は何を云われるのだろうと考え、落ち着かない気分で居た。ユラナスさんの同席を条件にした事もあって、私と兄はユラナスさんの家で領主の返答を待っていた。私の雑な理解だと、領主と云うのは都道府県知事の様な存在だ。一庶民の私からしたら、凄過ぎて会うと云われてもイマイチ実感に欠ける。王様くらい偉ければ平伏す一択だが、領主にはどう云う態度を取れば正解なのだろう。

 ユラナスさんにどうしたら良いかを訊くと、取り敢えず頭を下げて、あとは云われた事になるべく逆らわなければ大丈夫だと云われた。本当だろうか。

 暫くして領主の遣いがやって来て、三人で領主の城へ来る様にと通達された。

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