第8話 町で出会ったユラナスさんと話す私

 春祭りの準備には孤児院も忙しい。町を飾る手伝いをしたり、内職が増えたりする。それに、教会として料理を振る舞うのだ。と云っても簡単なスープとスライスした硬いパンを二切れと云う簡素なものだが。

 ある日、私が孤児院の子と街へ行った所、ユラナスさんに会った。普段、孤児は買い物で街に出る時と、薪や山菜、木の実を採る為に森へ行く時以外孤児院の敷地から出ない。そしてユラナスさんは門番の仕事で忙しい。森に出入りする時に顔を合わせ挨拶をする事はあっても、雑談に興じたりと云った時間は無かった。だが、今日はユラナスさんは休日で、私は春祭りの飾り付けの手伝いのあとでそれぞれ時間が取れた。私は一緒に来ていた子に先に帰ってもらい、ユラナスさんと少し話す事にした。

 ユラナスさんは喫茶店を提案してくれたが、他の孤児や兄に悪いと辞退した。結局、町の中央にある広場の隅のベンチに座って、近くの屋台で飲み物だけを買って貰って話をした。レモネードだ。炭酸じゃないやつ。

 五月ともなれば陽が射せば随分と暖かい。陽気の中で飲む甘酸っぱいレモネードは、気持ちも体もすっと冷ましてくれた。

「最近はどうだい? シリウス君は元気?」

「兄は元気です。年の近い子と、時々院長に悪戯を仕掛けては怒られています。私も漸く孤児院での暮らしに慣れて来ました」

 やんちゃだねえ、とユラナスさんは笑う。

「あの……盗賊に関して、その後何か進展は……」

 恐る恐る訊いてみると、ユラナススさんは申し訳無さそうな顔をして後頭部を掻いた。

「申し訳無い。それらしき奴らが拠点にしている所は分かったんだけど、結構人数も居るみたいで……それに炎を扱う奴が居るって話だから、下手に手出しが出来ないのが現状なんだ。近隣の町村の守りを固めるので精一杯で、」

 ごめん、と頭を下げられて慌てる。

「ユラナスさんが謝る事じゃないです。頭を上げてください」

 ちらり、ユラナスさんが私を見て、申し訳無さそうな顔のまま何とか頭を上げてくれた。

「スフィアちゃんは歳のわりにしっかりしてるね。何だか大人と話している気分だ」

 ぎくり、とする。そりゃあ、私、前世で二十歳目前まで生きてましたから。生まれ変わって物心ついてからも合わせると、アラサーですから。ユラナスさんと同じ年頃ですから。とは云えないので、そんな事は……ごにょごにょと言葉を濁した。

「……あの、私考えたんですけど」

 吸入麻酔薬の様な物は無いのか、無いなら私の力であいつらの動きを鈍らせられないか、と、最近考えていた事をユラナスさんに話してみた。ユラナスさんは難しい顔をして少し考え込んだあと、ごめん、と再度頭を下げた。私は吃驚してしまう。

「子供の君にそんな事を考えさせてしまって……」

 悔しいよな、ユラナスさんに云われ、涙が少し滲んだ。

「気体状の眠り薬なんて魔法みたいな物は無いけど、冷気で奴らを鈍らせる事は出来るかもしれない。でも、子供の、女の子の君に、そんな危険な事はさせられないよ」

「でも、何とかしないと、きっと直に、またどこかの村が襲われます。今は私達の村から略奪した物資で食い繋いでいるかもしれないけど……攫われた子供達を助けるのだって早い方が良いです。売られてから時間が経てば足取りを追うのが難しくなる」

「……本当に、大人の様な事を云うんだね」

 私は、いやいやそんな……とまた言葉を濁した。

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