第6話 退院して孤児院に入り決意をした私
私と兄は数日入院する事になった。退院後は一先ず教会の孤児院に預けられる事になる。と云ってもそこに居られるのは十八歳までなので、兄はあと三年の内に身の振り方を決めなければならなかった。
村を襲った夜盗の討伐をどうするかが、町での、領主への課題となっていた。領主としては、領地で起こった問題は解決せねばならない。しかし、相手方にはギフテッドが居る。戦う事の出来るギフトを持つギフテッドは、一騎当千と云われる程だ。この町の兵だけでは太刀打ち出来ないだろう。しかし、他の領地に応援を頼んだとしても、近隣の友好的な領主の持つ戦力はここと似たり寄ったりでギフテッドを討ち取るのは難しいだろう。王都にならギフテッドの兵も居て何とかなるかもしれないが、一領主の救援要請に応えてくれるとは思えないし、何より王に夜盗が出たなどと云う不祥事を知られたくない。
つまり、手を拱いている、と云う状況だ。結局、兵を何人かずつ各村に配置すると云う程度の事しか実行されないだろうとの事だった。
ユラナスさん……あの夜助けてくれた門番さんが、知る権利があるだろうと云って、そう云った内情をこっそり教えてくれた。兄も私も歯痒い思いだったが、領主の苦悩も分かる。何より無理に盗賊を討伐しようとして、無駄な犠牲を出して欲しくはなかった。
数日後、プルートさんに見送られ、私と兄は休日を潰してくれたユラナスさんの案内で教会の孤児院へ向かった。最初に会った時は装備の所為で良く分からなかったが、彼はまだ若い茶髪の男性で、どちらかと云うと優男風なので私服だとあまり門番には見えなかった。
道中、内緒だよと云って市場で串料理や菓子を買い与えてくれて、私と兄は多分、これが最初で最後の贅沢になるなと感じながらそれらを味わった。
教会で迎えてくれたのは優しそうな初老の男性と、ちょっと厳しそうな中年の女性、そして優しそうな妙齢の女性だった。私と兄はユラナスさんに丁寧に礼を云い、帰る彼の背を見えなくなるまで見送って、それから孤児院へと入った。
子供は二十人程居た。皆思ったよりも綺麗な格好をしていて少しほっとする。年長者は来年にはこの院を出る男の子で、その一つ下に女の子。他は殆どが十にも満たない子供だった。私達はこれから共に生活をする子達を紹介された後、院長室(初老の男性が院長だった)へ連れて行かれた。
「引き取られて行く子も時々居るのですが、里親は大抵、幼い子を選ぶから、君達はきっと成人までここに居る事になるでしょう。ソフィアさんがギフテッドだと知られればその限りではありませんが……悪用しようと云う者が居ないとも限らない。その事は秘匿すべきでしょう」
ここでの決まり事などを説明されたあとに、院長からそう云われた。私と兄は顔を見合わせて頷き合うと、
「分かりました」
と答えた。
私達の暮らした村は平和だった。だから隠す必要が無かった。けれどそんな村でも夜盗に襲われるのだ。もし盗賊が私の力、ギフトの事を知っていたら血眼になって私を捕らえただろう。売るにしても、手下にするにしても、ギフテッドは大きな価値がある。
ふと、攫われた子達を思った。みんなどうしているだろう。ユラナスさんは、恐らく売られるのではないかと云っていた。違法だが、様々な目的の為に人を買う者、売る者はあとを絶たないそうだ。
孤児の中には、売られそう/買われそうになった所を保護された子も居るらしい。私達の友人達も、そんな目に遭っているかもしれないと思うと、また頭が沸騰しそうだった。けれどこの力は秘密にしなければならない。私は深呼吸をして頭を冷やした。と同時に決意した。力を鍛えて、きっと近い内にあの盗賊を壊滅させてやろうと。
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