第5話 目が覚めたのち事実を知らされた私
目が覚めるとベッドの上だった。一瞬家のベッドかと錯覚したが、天井が家より高いし全然違う。何度か瞬きをして眠気を追い払い体を起こし、すぐ側の窓の外を見た。陽が高い。それに、外から人々の活気のある声が聞こえて来る。
そうだ、町だ。私と兄は町に着いたのだ。……兄はどこだ?
室内を見回す。簡素なベッドが私の寝ているそれを含めて四つ。それぞれに小さな棚の様な家具が一つずつ。一応カーテンの様な仕切りが付いているが全て開け放たれており、ベッドは一つしか埋まっていない。つまり私しか居なかった。
「スフィア!」
名を呼ばれて弾かれた様に部屋の入り口を見る。兄が駆け寄って来て、私に抱き着いた。清潔な匂いがする。それに服が私の記憶と違っている。傷の手当てもされている様だ。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫か? お前、夕べ倒れたんだぞ。眠ってるだけってユラナスさん……あの門番さんが云ってたけど、心配したんだからな」
「スフィアさん。お食事とお風呂、どちらが先が良いですか」
兄の後ろに居た白いワンピースの女性がにこにこと声をかけて来た。見上げると栗色の髪を肩で揃えた、ふわふわとした笑顔の優し気なお姉さんだった。
「この人、ここの看護師さんだよ。プルートさん。俺も夕べ風呂借りて、今昼飯食べて来たんだ。手当もこの人がしてくれたんだぞ」
兄が紹介してくれたので、スフィアです、どうも、と頭を下げる。
お腹も減っているが、土っぽい体をどうにかしたい気持ちも強い。どちらにするべきか。
「シリウスさん、夕べからずっとスフィアさんを心配してらしたんですよ。食事も、スフィアが起きるまで要らない!と最初は云い張っていて。説得するのに苦労しました」
「ちょ、それは黙っててって云ったじゃないですか!」
二人の遣り取りが微笑ましい。思わず口元が緩んだ。ちなみにシリウスと云うのが兄の名前だ。私はいつもお兄ちゃんと呼ぶので、シリウスと呼んだ事は一度も無い。
「私、先にお風呂をお借りしたいです」
「では、こちらへどうぞ。立てますか」
プルートさんに手を取られて立ち上がる。自力で歩けそうなので頷いて、彼女に手を取られながら風呂場へ向かった。風呂場には村の家と違って浴槽があった。と云っても大きな木桶と云う感じの粗末な物で、その中に湯を張って入り、髪を洗い、体を洗った。
風呂を上がるとプルートさんに連れられ医師の元へ行き傷の検分をされ、幾つかまだ手当てが必要だと云われたので部屋に戻ってから薬を塗られガーゼを当てられ包帯を巻かれた。それから漸く食事の時間だ。硬いパンと、具が少しのスープ、蒸かした野菜とミルク。村での食事とそう変わらない。食べている内に懐かしくなって、涙が零れた。
「村は……私達の村は、どうなったの」
兄に問う。兄は顔を伏せ、酷く云い難そうにした。プルートさんの表情が痛ましげなものになり、兄の代わりに口を開いてくれる。
「朝になってから兵を出し先程こちらにも報告が来ました。盗賊は夜の内に村を去った様で、ご遺体と焼けた家々が残されていたそうです。領主様の方で把握されている村人の数と照らし合わせるに、殆どの大人が……殺されてしまった様です。子供は殆ど攫われたと思われます。少なくともこの町や近隣の村には、子供はお二人しかいらっしゃいませんでした」
「大人も何人かは生き残って、他の村に逃げ込んでたみたいだ。でも、殆どが村の中か道の途中で焼けて亡くなってたって。……夜盗の中にギフテッドが居たらしい」
ギフテッド。私と同じ能力者。焼けた家と焼けた遺体……多分、炎系の能力者が居たのだろう。私は悔しくて悔しくて、ぐっと手を握り締めた。怒りで脳がぐらぐらと煮え滾る様だった。
「スフィア、落ち着け!」
兄に肩を叩かれてはっとする。室内の気温がぐっと下がっていて、無意識に力を使っていた事に気付く。
「ごめんなさい、プルートさん」
「いいえ。あなたがギフテッドだと云う事はシリウスさんから聞いて知っていましたから」
大丈夫ですよ、と微笑みかけてくれるプルートさんに、また涙が零れた。
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