第3話 十二歳になって惨劇に見舞われた私
私は十二歳になっていた。
村に同じ年頃の子供はあまり居ない。けれど少しは居る。ただ、特殊な力があるのは私だけで、何となく村中から特別視されている節があった。
王都の方では、十三歳から十八歳までは寄宿学校に通う事も出来るのだが、この村には教会の様な施設があり、そこで幼い子供に読み書きを教えるくらいしか教育と云えるものは無かった。私は寄宿学校、と云う響きに幾許かの憧れを抱いたが、そんな費用は田舎の普通の家には無い。三つ年上の兄も、幼い頃から家の手伝いをしていて今では戦力として数えられている。我が家は春から秋は農業をし、冬はその蓄えで過ごすと云う、どちらかと云えば貧しい家だった。冬場は多少狩りもするが。この小さな村の家々は大体がそう云う家だった。
まだ子供な上に前世は現代日本暮らしだった私はこの世界の税などの制度を詳しくは知らないが、領主と云う人が居て、その人に収穫の一部やそれを売って得た金品を納めている様だった。
家族四人、贅沢は出来ないが充分に暮らしていける。そう云う家で、村だった。私はそれで満足していた。幸せだった。けれど。
「逃げなさい。森を行けばきっと安全よ」
逃げ惑う人々。
「お前はお兄ちゃんなんだから、スフィアを守るんだよ」
上がる悲鳴と怒号。
「お母さん達もすぐにあとを追うからね」
それはきっと嘘だ。
「走って!」
早く、と小声で叫び急かす母。私は後ろ髪を引かれる思いだったが、兄と手を繋いで森の中へと逃げた。
春も間近なその日、飢えた夜盗に襲われ、私の村は壊滅した。幼い頃から何度も遊んだ森が、私と兄を守ってくれた。
私と兄以外にも逃げ延びた人は幾人か居ただろうが、兄と寄り添い寒さに耐え一晩待っても、野草を食んでもう一晩待っても、母と父は来なかった。
「これからどうするの」
兄を見上げて袖を引く。兄は赤くなった鼻を啜り、目元を擦って、きっと前を見据えた。
「町を目指そう。歩くとちょっと遠いけど、日暮れまでには着けると思う」
「家には戻らないの」
「あいつらが根城にしているかもしれないし、俺達だけで戻るのは危険だ。隣町に行って、大人達に事情を話して、判断を仰ごう」
「……分かった」
友達から貰った物も、両親から貰った物も、兄から貰った物も。何一つ持って行けない事が辛かった。持っているのは今着ている服と髪飾りくらいだ。けれどそれは兄も同じで、その兄が云うなら私も我慢しようと、そう思った。
「行こう」
私達は手を繋いで歩き出した。
私の持つ特殊な力で、あいつらをどうにか出来ていたら。そう、思わずには居られなかった。
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