第2話 五歳になったまだ呑気だった頃の私
私は五歳になっていた。
今度の私は春生まれだった。明け方、蝋燭の明かりに囲まれて生まれた。らしい。
らしいと云うのは、生まれた時の記憶が無いからだ。前世の記憶はあると云うのに、赤ん坊の頃の事は覚えていられないらしい。不思議なものだが、そんなものかと納得した。だって、前世でだって赤ん坊の記憶は無い。
三歳頃までの私は、良く変な事を口走ったと家族は云う。偶然だが、家族構成は死ぬ前と一緒で母、父、兄だった。
多分、三歳頃までの奇怪な発言は、前世の記憶から来るものだと思う。きっと、前世と今世の区別が付いていなかったのだろう。今は前世と今世の区別がしっかりしているのでうっかり変な事を口走る事は格段に減った。
今世での私の名前はスフィアと云った。苗字は無い。田舎の家はそんなものだと云う。王都に出れば苗字のある家の方がずっと多いそうだ。そう、この国は王制だった。
言語は英語に近い。前世では苦手な科目だったが、それでも今世での言語習得には前世の記憶が活きた様で、言葉を覚えるのが早かったと未だに父と母は自慢げに云う。
科学力や技術力、知識なんかは中世が近い。服装なんかも中世ヨーロッパが近いのではないだろうか。とは云え私は歴女でもヨーロッパマニアでも無いので、詳しくはないから何となくのイメージでしかないのだが。
そして世界観としては、時々特殊な能力を持つ者が生まれる、と云うものだった。それは生まれ付きのもので、家柄や家系は関係無い様だった。ちなみに能力はギフト、能力を持つ者はギフテッドと呼ばれる。私が元居た世界ではギフテッドとは高い知能を持つ者の事だったが。
ここで生まれ変わりの際に誰かが云っていた力の話になる。そう、それが特殊な能力の事だ。私の能力は、「氷」だった。水を氷に変え、空気や物を冷やす。何故こんな雪女の様な能力なのだろうとずっと不思議だったが、最近思い出した。私、死ぬ前にアイスの事考えてたじゃん。あの人(?)「死ぬ間際に強く思った事に起因する」って云ってたじゃん。もう絶対アイスが元になってるじゃん!
我ながらなんて阿呆な……とちょっと悲しくなったが、意外と便利な能力だった。何故なら冷凍庫や冷蔵庫と云う物が無く、村から少し離れた所に氷室がある程度だったからだ。
私のおかげで私の家は、物の保存に困らなかった。ただ一つ困った事はと云えば、生まれ付きの能力故に、生まれた際に母や産婆さん、そして自分さえも凍えさせかけたと云う事くらいだ。最悪生まれてそのまま凍死しかねない能力なのだと知った時は内心修羅場だった。能力の制御は年を追うごとに上手くなっているが、生まれた直後はそうもいかなかったらしい。
そんな私の住む国は日本の様に四季がある。特にこの村の冬は雪深く夏は暑い、そんな気候だった。秋は短く冬は長い、そんな土地だった。だから普通、冬の間に氷室に雪や氷を溜め、夏はそれを利用していた。
ちなみに前世の私は北海道に住んでいた。今世も環境は大差の無い場所に生まれたのは、慣れていて楽ではあるが面白味が無かった。
それでも私は、この田舎暮らしを気に入っていた。便利さは無いが、平和だった。私の目標は、「今度こそ二十歳まで生きる事」だ。この平和さが、それには合っている。
五歳の私はぼんやりと、しかし確かに「きっとこの村で育ち、結婚し、死んでいくのだ」と、そう思っていた。
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