1章:甘くて可愛い彼女ができました その8

 メンタルをへし折られそうになりつつ、ようやく夏彦は体操ズボンの回収を完了させる。

 夏彦が脂汗をいているのに対し、

「きゃ~~~♪ 可愛かわいい~~~~♪」

 一方その頃、新那さん。カワウソがビーフジャーキーを一生懸命食べている姿に悶絶中。

 バタバタと足を動かせば、き出しのパンツや生足がえっちらほっちら。

もだえるな! 人の気も知らずに!」

「人の気? 夏兄は、にーなのパンツに興奮してるの?」

「!? し、しししてねーし!」

 焦り具合が童貞のソレ。

 これ以上、小娘のパンツごときで搔き乱されるわけにはいかない。

 夏彦は、さっさと新しいハーフパンツを穿いてもらおうとウエスト部分を広げる。

 しかし、

「あ、待って夏兄」

「何だよ」

「ちょっとズレてるから上げてほしいの」

「? ズレてるって何が──、!!!???」

 理解できなかった夏彦もぐに理解してしまう。大赤面してしまう。

 それもそのはず。仰向けから、うつ伏せに戻った新那のパンツに注目してしまったから。

 そう、パンツがズレていた。

 新那の小ぶりで、ぷりんとしたお尻から、可愛い割れ目が僅かにコンニチワ。

 胸の谷間がザックリ開いているより、チラ見えしている方がエロい道理と同じ。

 いくら妹であろうと、刺激的なものは刺激的。紙耐久の夏彦に耐えられるわけもなく。

「~~~~~っ! 自分で戻せよ!」

「えー。でも、カワウソちゃんが可愛いから夏兄が──、「動画止めろやぁ! YouTubeに停止ボタン付いとんの知らんのかぁぁぁ───!」」


・規格外のマイペース

・エロへ無頓着

・兄が人畜無害だと熟知している

 以上から成り立つ、妹の離れ業である。


「夏兄はピュアだなあ」と、仕方なしに動画を停止させた新那は、自らの手でずり落ちていたショーツを上げる。

「コレも!」と、新しいハーフパンツを夏彦が突きつければ、新那は寝そべったままに受け取ったハーフパンツにも足を通す。無事着替え完了。

「最初から自分で穿いてくれよ……」

「善処しまーす♪」

 間延びした返事&にへら~と笑っている時点で、改善の見込みは薄い。

「あ。そんなことより夏兄」

「何でお前は、一連の流れを軽く流せるんだよ……」

「ミィちゃんと付き合えるようになった?」

「………………。!!!???」

 つくづく、一連の流れに戻りたい夏彦。

 動揺を隠せるわけもなく、

「な、何で俺と未仔ちゃんが付き合うようになったの知ってんだよ!?」

「それじゃあ、2人とも恋人同士になれたんだ。おめでと~♪」

のんかよっ! でも、祝福ありがとう!」

 新那も新那だが、夏彦も夏彦である。

 お気楽ガールのまったり具合を見ていたら、夏彦の焦りも多少は緩和される。

「……ということはアレか? 未仔ちゃんが今日俺に告白することを、お前は知ってたのか?」

「んっとね。近々告白するのは知ってたけど、今日思い立ったのは予想外だったかなぁ」

「ん? 今日思い立った?」

「そうそう。今日の放課後、ミィちゃんと一緒に帰ってるときに見ちゃったから」

「見ちゃったって、何をだよ」

「夏兄が琥珀ちゃんに泣かされてたの」

「…………。!? み、見てたの!?」

 不意打ちすぎるカミングアウト。夏彦はコンビニ前で琥珀におちょくられていた記憶がフラッシュバックしてしまう。

 新那がファイナルフラッシュ。

「見てたよー。琥珀ちゃんがブラチラしたり、おっぱい近づけたり、夏兄が『超絶に可愛い彼女を絶対作ってやるからな』って泣きながら逃げちゃったところも」

「イヤなとこ全部じゃねーか! てか泣いてねーし! 超我慢してたし!」

 我慢はセーフと考えてる時点で、もはやボロ負け。

「あの光景見られてたのかよ……。~~~~~っ! 思い出すだけでも恥ずかしい!」

「相当恥ずかしいよねー」

「慰めろバカタレ!」

「よしよしする?」と首をかしげる時点で、新那に悪気はない。

 夏彦は恥ずかしがりつつ、気になっていた謎が解けたことにスッキリもしていた。

 未仔がへんな高台にいた理由は、自分のことをわざわざ追いかけてくれていたからなんだと。

 さらには、自分の彼女作ってやる発言に、告白は今しかないと勇気を出してくれたことを知ってしまえば、別の意味で顔が赤くなってしまう。

 兄が絶賛もんぜつ中だろうが、妹はやはりマイペース。「そろそろドラマの時間だから、リビング行くねー」と新那はベッドから立ち上がる。

 そして去り際、

「ミィちゃん、昔からずっと夏兄のこと好きだったんだから、大事にしてあげてね?」

「お、おう……。すごく大事にするよ……」

「うん♪」

 笑顔の新那が部屋から出て行けば、代わりに夏彦がベッドへと倒れ込んでしまう。

 妹のぬくもりとか残り香とか、まったく意にも留めず。

「未仔ちゃんが可愛すぎる……」

 今は未仔のことで頭がいっぱいなのだ。

 故に、ベッドに捨て置いたスマホが、LINEのメッセージを受信しても、ぼんやり眺めるだけ。

 メッセージぬしは琥珀。


【琥珀】ナツー。モンハンしよーぜー。


 普段の夏彦なら、『お前はどこのなかじまだよ』とか『俺はカツオじゃねえ』といったメッセージを返しつつ、PS4を起動していただろう。琥珀とひと狩り行っていただろう。

 けれど、今はモンスターをハントする気にはなれない。

 幸せで胸いっぱいだから。

 というより、未仔のことで頭がいっぱいだから。

 寝転がって枕を掲げれば、その枕は未仔にさえ見えてしまう。

 思わず、ぎゅっと力強く抱きしめてしまう。

 思わず、身悶えてしまう。

「うぉぉぉぉぉ~~~~~~! 俺の未仔ちゃんが可愛いぃぃぃい~~~~~~~!」

 ベッドを縦横無尽に転がりもだえてしまう。

 いきなり、部屋の扉が開いてしまう。

「夏兄ー。にーなのスマホ、部屋に忘れ──、」

「うぉぉぉぉぉ~~~~~~! 俺の未仔ちゃんが可愛───、……ん? …………。!!! にににににに新那!!!????」

 そりゃ驚く。自分が悶えている光景を妹に目撃されてしまったのだから。

 コンビニ前含め、本日2回も。

「夏兄」

「ひゃ、ひゃい!」

「ミィちゃんを抱きしめるときは、もっと優しくしてあげてね?」

 夏彦、顔面大噴火。

「~~~~~~~っ! 言われなくても優しくするから!」


    ◆ ◆ ◆


「ナツ君、何が好きかなぁ……」

 スーパーに入った私は、精肉コーナーでにらめっこしていた。

 お弁当のメインは、やっぱりお肉料理。

 とりにくなら唐揚げ? 豚肉ならしよう焼き? 牛肉なら時雨しぐれ煮?

 ナツ君が一番喜んでくれる、お弁当を作ってあげたい。

「♪」

 ウキウキしちゃうな。思わず口角も上がってしまう。

 ウインドウショッピングも楽しいし好きだけど、どうやら私は、大切な人の献立を考える時間のほうが好きなようだ。

 うれしくなればなるほど、「ずっと好きだった人の彼女になれたんだ」という喜びが、胸いっぱいに広がっていく。

 告白したときのことを思い出してしまえば、今でもドキドキが止まらなくなる。

 シンプルに、「ずっと大好きでした」って告白するつもりだったけど、勢いや焦りに身を任せすぎちゃったなと我ながら思う。


『おっぱい揉んでいいので、私と付き合ってください』


 振り返ってみれば、とんでもない告白だ。

 喜びから一変。ガラスに映る自分が、どうしようもなくエッチな女の子に見えてしまって恥ずかしい。

 ナツ君的にはどうなんだろう。

 ふと胸へと視線が行ってしまう。

 おっぱいみたいって叫んでたし、やっぱりエッチな女の子のほうが好きなのかな?

 揉みたいって言ってたし、やっぱりおっぱいが好きなのかな?

 男の子だもん。やっぱり好きだよね。

 けどだ。ナツ君は言ってくれた。揉みたい気持ちはあるけど、それ以上に私のことを傷つけたくはないって。

 あのときは、本当に嬉しかった。涙さえにじみそうになるくらい。

 そんな優しいナツ君だからこそ、私としても何でも受け入れてあげたいという気持ちが強い。たとえそれが、胸を揉むことでも。

 ナツ君が望むなら、その先だって。

「~~~っ……! これじゃあ、私のほうが望んでるみたい……!」

 覚悟の先を想像しすぎたら、顔も真っ赤になる。

 1つ2つと深呼吸を繰り返し、平常心を取り戻していく。今一番大事なことは、ナツ君に喜んでもらえるお弁当を作ることなのだから。

 ほおをピシャリとたたき、気合は十二分に入った。

「うん……! 美味おいしいお弁当作り頑張ろう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『おっぱい揉みたい』って叫んだら、妹の友達と付き合うことになりました。 凪木エコ/角川スニーカー文庫 @sneaker

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ