第13話 お題12-2:「きっと仕方の無いことなのだ」から始まり「貴方があんまり楽しそうに笑うからついついつられてしまった」で終わります。

其の頃、移民船レタッチリは、火星軌道上の戦闘空域から数百万キロほど迂回する形でアステロイドベルトへと向かっていた。ハイパードライブ搭載とはいえ、通常空間では光の速度を超えられない為、地球から数日かけて向かう形になる。すでに出港から一日が経っていた。

地球の宇宙港の位置関係上場所が読まれる可能性は高いものの、かなり順調に進んでいた。

-メインブリッジ-

「周辺探査異常はないか?」

「現在100万キロ以内に未確認物体、艦船の反応なし。索敵続けます。」

「よし、何か反応があったら教えてくれ」とジェイクは返答し、ぼそりと呟いた。

「このまま何も起こらずにゲートに着いてくれよ……」

______


-移住区-bar シークレットガーデン-

薄暗い店内、一枚樹の板で出来ているカウンターに3人の若者が集まっている。

「「「マスター取り合えず、ビールっ!」」」

「まだ、警戒態勢が完全に解けている訳じゃないから、ソフトドリンクのみ提供しますよ」っと3人分のドリンクを出してくれた。

「とりあえず、戦闘に巻き込まれなくて済んだみたいだな。いやぁ、良かった良かった。戦闘なんかに巻き込まれちゃたまらないもんな。あとはゲートまで行って跳べばそうそう追いかけてこれないってね。」

っとアルが軽口を叩く

「だけど、まだ二日もかかるんだし、まだ気を緩めるなよな。また頭抱えてフリーズされると困るよ? 」っとコージが返答する。

「格好悪いなぁ。アルは、いつも口だけで行動出来ないから、気を付けてよね」っとマリーが追い打ちをかける。

「二人ともひでぇなぁ。たくっ。わかってるよ。気をつけるって」っと不貞腐れたようにアルが返すと二入とも笑ってアルの背中を叩いた。

「ともかくだ。まずは無事に3人共に太陽系を抜け出せる事を祈って……乾杯」っとコージが言うと二人揃って微笑み頷いて『乾杯』っとグラスを挙げた。


-火星軍特務戦隊 旗艦アスティール-

コツコツコツコツ イラついたような指先がひじ掛けを叩き続ける。神経質そうな声で「恐らくこちらの方を抜けて、目標はゲートに進む筈よ。まだ例の資源船は見つからないか? 」と赤金色の長い髪を払いながら艦長は言う。

「現在、ガヴラス隊が索敵を行っておりますが、周囲にはまだ機影も見当たりません。」とオペレータが答えると

「あれを拿捕すれば、数十年ほど戦闘が続けられる規模の資源が手に入る。全力で探せ! 」っと彼女は命令した。

「はっ」

そうして捜索は続く。

「艦長、ガヴラス隊より入電です!目標発見これより強襲するとの事です」

「来た座標に向かうぞ、手柄を独り占めさせるな!さぁ、狩りの時間だよっ」

そうして戦艦アスティールは、移民船獲物へと向かう。その肉を食い破る為に。



-少し前、ガヴラス隊-

黒い甲冑を着たような義体にライフルとブースターを付けた数機の義体が索敵の為に飛び回っている。時折、気づいたようにプローブを飛ばし、広範囲の情報を拾えるように仕掛けて回っている。

遠隔で操縦されるその義体は、VR技術を発展させて作られている。

人的損害を最小限に抑えるのが目的ではあるのだが理論上、義体が破壊された時にどの程度のフィードバックが来るかは個人差があるという欠陥があった。過去に一度だけ、訓練中に100%フィードバックされる環境下で兵が1名脳死した事件があったのだ。それ以降はないもののフィードバック率は50%~70%に抑えられている。

ロビンソン「ガヴラス隊長、またヒス女がガミガミ言ってるみたいですね。面倒ですねぇ、大人しくできないんでしょうか? 」

ガヴラス「ロビンソン。口が過ぎるぞ。聞かれたら面倒だ。任務に集中しろ」

ロボンソン「しかし、こんな場所を通るんでしょうかねぇ。軌道を数百万キロも離れたら戻るのすら大変でしょうに」

ガヴラス「来るさ。例の移民船は資材だけはたっぷり積んでいる。多少の遠回りさえも誤差の範囲だ。」

レーダーに巨大な質量の物体が引っかかる。ガヴラスはニヤリと笑うと、

「来たぞ、ガヴラス隊、報告後強襲する。ブリッジさえ押さえてしまえば、こちらの勝ちだ。……いくぞ」っと

指示を出し行動を開始した。白い航跡を残しガヴラス隊は、巨大質量の物体……移民船へと強襲するために向かうのだった。


-アステロイドベルト入り口付近-

「……あれが移民船か。カタツムリが殻を先頭に動いてるようにしかみえんな。艦橋は……入手したデーターが正確ならば、あの殻の全面中央付近か? よし、ロビンソン援護しろ。レクスは小型ブースターを岩に装着して移民船に向けろ。5時間後に移民船が対処中に近づき一気に艦橋を落とす。」

と指示を出すとガヴラスたちは仕掛けの準備に入った。


-移民船レタッチリ移住区、観光ブロック-

一般の市民達はシェルター区画に詰めていた。私たちは、目視での状況監視補助で観光区画から、外の様子を見ている。

「何も無いぜ……暇すぎる」とあくびをしながら、アルが言う。

「真面目に見とけよ。敵が来たら、俺たちもただじゃ済まないんだから、きっちり仕事しようぜ」といつも通りコージが窘める。

「はいはい~っと。どれどれ~しっかり見ますかぁ」っと楽しむようにお道化て言うと、思わずコージは楽し気に笑ってしまう。

マリーが「貴方あんたがあんまり楽しそうに笑うからついついつられてしまった」じゃないっと笑いながら背中を殴りつつ外を見ると一瞬で緊張が走って言う「今、何か外で光らなかった?あっち、見て」っと指さした。

指をさした方角に二筋の航跡と光る物体が見えた……「ブリッジへ11時方向に機影あり繰り返す。11時方向に機影あり……」

そう通信すると同時に観光区画の一部が吹き飛び、何人かが亀裂から吸い出されていく。

私は咄嗟にマリーとアルフレッドの手を掴み柱に絡みつくように手をまわした。


アルは腰のワイヤをマリーに括り付ける。マリーは私にワイヤを括り付けた。

「ドームが閉まり次第、シェルターに移動しよう。行けないようなら義体パイロット区画のコクピット(通称コフィン)なら飛ばされないだろう」二人は頷き、行動準備に入る。


そうして、私たちの、いや、移民船レタッチリは戦闘に巻き込まれていく事になる。



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