黒ギャルゴリラ

滝千加士

第1話

 とある森の奥地。

 そこでは動物たちが食物連鎖や自然の摂理など自然界ルールのもと、


《え~、お昼のニュースです》


 暮らしていません。

 森の動物たちはその多くが会社などで働く社会人です。つまるところ、現代の人間と同じような生活をしています。


《今日未明、黒ギャルゴリラが少年院から逃げ出しました》


 会社のオフィスに設置されたテレビに、ニュースキャスターであるネズミ君が映っています。

 現在はお昼休み。皆で休憩を取っていたのです。


「な、黒ギャルゴリラだって!?」


 ウマシカ社長が机をバンと叩いて立ち上がりました。


「いやぁー!! 黒ギャルゴリラ!! に、逃げないと殺されちゃうっ!」

「こ、この世の終わりだーっ!!」

「ふ、ふふっ、ら、ラグナロクの再来か……!」

「今だ! 死ね部長!」

「ぎゃー!!」


 部下の動物たちも慌てふためいています。

 混乱に乗じてヘビ社員が虎部長に噛み付きました。ヘビ社員は虎部長にパワハラを受けていたのです。


「皆落ち着け! まだニュースは終わってないぞ!」


 ウマシカ社長が恐慌状態に陥りかけていた部下たちを鎮めました。流石の落ち着きと言った所でしょうか。

 しかし虎部長とヘビ社員のことに気付いていない以上、やはり『馬鹿』という名は伊達ではないようでした。 

  

「なんスか? そのくろぎゃるごりらって」


 バイトの猫君が聞きました。


「え、えぇ。黒ギャルゴリラっていうのは、とにかく3文字が大好きなの。だから3文字のもの全てを抱きしめるの。そしてその有り余る力で絞め殺してしまうのよ」


 キツネ事務が猫君の質問に応えました。

 その左手薬指には、きらりと光る輪がはまっています。


「そうなんスか。自分は2文字で関係ないんで言えるんスけど、なんかそいつ可哀想っスね」

「え、可哀想?」

 

 キツネ事務は猫君の言っていることが分からないようでした。


「だってそいつ、自分の好きなものを愛でようとしてるだけっスよね? まぁ、やられる側からすれば堪ったもんじゃないでしょうし、殺しちまってからもやめない時点でそいつもそいつなんスけど」


 猫君の言っていることは正論でした。

 キツネ事務はそういう見方もあるのねと納得し、さっきまで恐怖の対象でしかなかった黒ギャルゴリラが若干哀れに見えてきていました。


《依然として黒ギャルゴリラの脅威は続いております。では、監視カメラの映像をどうぞ》


◇◇◇


 のっしのっしとその大きな二本足で歩く黒ギャルゴリラ。

 頭には無駄に綺麗な長い金髪のかつらが載っており、ぱっつんぱっつんのミニスカとへそ出しタンクトップを着ていました。

 どちらもピンク色です。それもただでさえ露出が多いというのに、追い打ちの如くダメージが入っています。もはや服の機能を成していませんでした。    


「ウホ?」


 何かに気付いたようです。

 黒ギャルゴリラが茂みを漁り始めました。

 そして、


「ウホッ! ウサギ・・・だ♡」

「ひ、ひぃっ」


 可愛らしい白ウサギを見つけました。

 ウサギは震えています。


「ウホホホホ!! かわいいかわいい!!」

「ああぁぁぁぁ!!」


 ウサギがやられました。

 

◇◇◇


《3文字の動物は注意してください!! 黒ギャルゴリラは現在、ヤマノオカ方面へ向かっています》


「ヤマノオカ方面って、キツネさんの家の方じゃないっスか?」

「ん? えぇ。確かに家はヤマノオカ3丁目だけど……」


 そこまで言って、キツネ事務はハッとしました。


「旦那とあの子達が危ない!」


 キツネ事務はすぐさま携帯をバッグから取り出し、電話をかけました。


◇◇◇


「えっ、黒ギャルゴリラ? こっちに向かってる? マジで言ってんのかよ」


 パソコンを弄りながら、キツネの旦那は通話に応じました。

 

《そうなのよ!! だから逃げて!》

「いや、そうしたいのはやまやまだが流石に無理だ。分かるだろ?」

《うっ……。そ、そうね》

 

 家には子供がいました。

 それもまだ不安定な時期です。

 それなのに何故母親であるキツネ事務が仕事に出ていたか? 簡単な話、旦那が在宅業であるからです。

 

「まぁ、変装でもしてキツネだってバレないようにしておくよ。そうすれば黒ギャルゴリラにも狙われずに済むだろう」

《う、うん……。絶対だよ!? 私すぐに帰るから! 絶対無事に居てね!》

「あぁ。分かってるよ」


 通話は終わりました。


「しっかし、どうすっかな」


 旦那はどのような変装をすればいいか、悩み始めました。


◇◇◇


《2丁目が突破されました。アヒルと未通女おぼこがやられました》


 ブロロロロ!!!

 昼休みが終わるまでには帰るからと社長に告げ一時帰宅の許可を得た嫁は、ハーレーに乗って颯爽さっそうと森を走り抜けます。

 キツネの嫁はわりと豪快な趣味でした。





 看板の下を通り抜けた黒ギャルゴリラ。

 そこには、ヤマノオカ3丁目と書いてありました。

 そして黒ギャルゴリラは道の先に黒い影を見つけます。 


「ウホホホホッ」


 新たな獲物かと、黒ギャルゴリラは嬉しそうにドラミングをしながら近づきます。


「あっ♡ ゆびわ・・・だ!!」


 そこには、犬のぬいぐるみを被ってパソコンを弄る旦那の姿がありました。

 しかしその左手薬指には、嫁と同じく光る輪がはまっていました。

 これは彼らの結婚指輪。旦那はもしかしたらと予想はしていましたが、外したくなかったのです。


「チィ!! っくそ。万事休す、か……?」


 追い詰められた旦那は壁際まで下がり、自らの終わりを予見しました。

 しかしその時です!


「あなた!!!」


 ズドン!


 家のドアが壊れることも厭わずハーレーに乗ったまま家に入ってきた嫁によって、黒ギャルゴリラは背中から思いきり突き飛ばされ気絶しました。


「よ、良かった……。無事だったのね。あら何か下にいるわね」


 キツネの嫁は事態を把握していません。

 一つのことに意識を集中すると周りが見えなくなる性質が嫁にはあったのです。

 旦那は運転者としてそれはマズくないか? と感じつつも、それによって命を救われたのは事実だしなと苦笑気味にハーレーの下を指差しました。


「ええっ! 黒ギャルゴリラ!?」

「お前が俺を救ってくれたんだよ。ありがとな」


 旦那は嫁の頭を撫でました。


「あ、あなた……」


 嫁は頬を赤くしデレデレモードに入りました。

 勢いそのままに2人の世界に入り込むかと思われましたが、


「んんっ!! それはそうと、俺を助けるためにわざとぶつかったならともかく気付かずに轢くは流石にマズいだろ。バイク乗るのは構わねぇし、趣味は否定しないけどもっと安全なのにしろよ?」


 流石は旦那さん。

 付き合いたてのバカップルとは訳が違います。

 そこはしっかりと抑えていました。


「は、はぁ~い」


 嫁はしょぼくれました。 


「まぁいい。こいつは……死んじゃいねぇし、正当防衛ってことで警察に連絡しておくわ」

「えぇ、お願い。はぁ~、良かった」

「今日……いつ帰りになる?」

「えっ?」

「こんなことがあったからさ。なんつーか、本能が騒ぐんだわ。まだ残せるものがあるって……分かるだろ? それにチビも一人じゃ寂しいかもだからな」

「あ、あなた……えぇ、すぐに終わらせて来るわ!!」


 こうして、森の動乱はキツネ夫妻のおかげで解決したのでした。


 ちなみにその夜、めちゃくちゃ交尾した訳ですがそれはまた別の話。


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黒ギャルゴリラ 滝千加士 @fedele931

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