貴方との世界

舞季

貴方との世界

何度寝ても、起きても。

世界はすぐには変わらなかった。


「外に出たいの!外に出して!」

「お嬢様ダメです!外はまだ危険な物が沢山で」

「もうそんな話うんざり!」

「お嬢様!」

無理やり家を抜け出し飛び出した世界は、とてもステキな世界だった。


美味しい食べ物、綺麗な景色、楽しい人達。

世界は私を、何者かも知らない私を受け入れてくれた。

そして、出会ったの。


「お嬢。」

綺麗なタキシードも、高級な時計も持ってない。

薄汚れたワイシャツにラフなズボン。

でも、何故だろう。

「お嬢は本当に何も知らないんだな。」

そう言って面白そうに笑う顔が嫌いじゃなかった。

むしろ、彼の笑顔をずっと見ていたい。

そう思うようになった。


「この街を出た方がいい。」

その人がいつになく真剣な様子で話し始めた。

「どうして?顔色悪いわよ・・・?」

「隣の街で疫病が流行りだした。いずれこの街にもその疫病がくる。」

「そんな・・・・」

彼が私の手を優しく握った。

「どうしたの、急に」

見上げると同時に、彼と唇が重なった。

唇が離れると、何時になく不安気に私を見つめる彼と目が合った。

「言ってくれなきゃ分からないわ。なんでそんな悲しい顔してるの。」

「・・・・・もう家に帰る時間だよ、お嬢様。」

「え・・・」

その時、部屋の扉を叩く音がした。

「お嬢様!やっと見つけましたよ!」

使用人の声に、彼の方を向く。

「どうして私の事・・・!」

「急を要する。早くここと離れた場所に行かなくちゃ。お嬢の体が第一だ。」

「じゃあ貴方も一緒に」

「俺が行ったら両親がお嬢を入れてくれなくなったら困る。」

「・・・・・嫌よ。私は貴方が居れば何も」

「今の選択で、この先の人生を台無しにして欲しくない。」

「こんなに好きなのに。なんで離れなくちゃいけないの?」

私の瞳から零れる涙を、困ったように笑いながら彼が指で拭う。

「愛しているから、大好きだからさ。俺は必ずお嬢を迎えに行くから。だから今は辛抱だ。」

ドアが壊れ、使用人達は私の手を取り外に連れていく。

「いや!まだ帰りたくない!」

「絶対に迎えに行くから!待ってろよ!」


こうして、私の自由な生活は終わりを告げた。


彼が言っていた事は真実となり、彼と出会ったあの町には疫病が流行り、数多くの死者が出た。

町と少し離れたこの家に連れ戻された私は、また何も変わらない毎日を過ごしていた。


毎日起きては窓の景色を見て、彼の笑顔を思い出した。

「なんで早く迎えに来てくれないの?」

何千回も同じ言葉を繰り返しては、1人涙を零していた。

もうあの人と会えないんだ。

そう諦めていた時だった。


部屋の外が騒がしくなり、足音が近づいてくる。

私の部屋の前で足音は止まり、扉が開いた。

「迎えに来たよ、お嬢。」

そこには前と変わらない笑顔が、そこにはあった。


焦っている両親や血相を変えた使用人達をかわして、また私は危険がいっぱいの世界に足を踏み入れた。

相変わらず疫病が蔓延していて、まだまだ安全とは言えない毎日だけど。

「私、今とても幸せよ。」

貴方が生きて、幸せそうに笑っていてくれさえすれば。

その中に私の存在があれば。

「お嬢?どうした?」

「なんでもない!」

私は誤魔化す様に彼の腕の中に飛び込んだ。


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貴方との世界 舞季 @iruma0703

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