第二回配信


 あ、こんばんうそうそ~。

 存在しないことに定評があるテキストベースVtuber、虚構架空でーす。

 はーい。ということでね。この挨拶?みたいのもまだこれって決まったわけじゃないんですけど。探り探りの。てさぐれみたいなね、状態なんですけど。

 今日はね、存在しないゲームの実況配信をしていこうと思ってます。


 あ、声ちょっと小さい。はーい。音量上げますね。

 振動する空気さえ無いのにね。いっちょ前に音量を調節しなきゃいけないっていうね。こういうディテールを突き詰めるほど存在感が出るかっていうと出ませんからね。むしろ存在感は薄れます。スパチャありがとうございます。


〝登録者数が一定数いかないとスパチャ導入できないんじゃないの?〟

 そうでしたっけ?じゃあわたしは何をもらってるんですか?スーパー無ですか?

〝そもそもテキストベースなんだから、動画風を装う必要ないのでは?〟

 あー……なるほどね。そもそもYOUTUBEっぽさが要らないと。じゃあテキストっぽさを出していけばいいんですか?

 じゃあ聞きますけど、文字小さいですか?読めますか?大きすぎますか?フォント大丈夫ですか?背景色大丈夫ですか?

 とかね。それは読む人のビューワの問題ですからね。そっちで解決してもろて。


 そうですね。そう考えて見ると、テキスト系Vtuberはコンテンツを作るだけで、プラットフォームは外部におまかせですからね。わたしが今どのプラットフォームで配信されてるのかは知りませんけど。



   ***


 ということでね。配信者らしく、早速存在しないゲームを実況してきたいと思うんですけど。

 今日やる存在しないゲームはこちら。

『クウィンケ・マギス・クオリフィア』略して『QMQ』

 意味は、“5人の魔女の認定者”みたいなことでしょうね。多分。

 もうこのタイトル画面が、ダークでシック。まどマギのパクリですよね。


 さて、どういうゲームなのかというと。一言で言うと、LoLみたいなMOBAゲームを魔法少女のキャラでやろうってことですねー。

 これではわかりにくいかもしれませんね。日本ではMOBAはそんなにメジャーではないので。MOBAって何?って方がほとんどだと思います。

 だからもう、やったほうが早いでしょうね。プレイしながら説明しましょう。


 ではマッチング開始ボタンを押します。

 マッチングという言葉でわかるように、これは5人対5人の対人戦なんですよ。対NPCではなく。魔法少女のチーム同士が戦うってことなんですよね。隣町の魔法少女と縄張り争いみたいな、よくある話ですね。

 このクライアントのインターフェースもかっこいいですよね。魔法陣が大量に回ってるけど安っぽくない。黒くて彩度を落とした雰囲気がまどマギ以降のダークな魔法少女ものを意識してますよね。


 キャラクター選択画面に来ました。BGMがいいですね。

 我々プレイヤーは〈クオリフィア〉となって、この魔法少女達のどれかを選んで召喚するということです。〈クオリフィア〉というのは、よくいるマスコットの猫みたいなやつですね。

 このマスコット達は、ゲーム中では魔法少女の後ろについていく形で登場します。単に動きに追従するアクセサリーのようで、実はこいつらが操っているという設定ですね。

 で、この猫の顔がQMQという文字の形になってるんですよね。タイトルの略称の。これに気づいたとき、はえ~って思いましたね。はえ~存在してないくせにそんなとこ凝っても意味ないのにな~ようやるわ~、と思いましたね。


 では他のプレイヤーがキャラ選択している間に、だいたいのゲームの流れを説明しましょう。


 魔法少女たちは、自分の街の〈街路〉を守ります。三叉に分かれた大きな〈街路〉には、両チームの本拠地である〈学校〉から生産される〈夢魔〉という小さな雑魚ユニットが大量に流れてきます。〈夢魔〉は二つの街が接する部分、つまりMAPの中央部分で衝突し、殺し合います。そいつらが戦っているところに、魔法少女が大きなユニットとして混ざります。

 魔法少女は夢魔のとどめを刺すことで〈ジェム〉を稼ぎます。同時に、経験値を貯めてレベルアップします。本拠地に帰ると、〈ジェム〉で装備を買えます。

 相手の〈学校〉を破壊するのが勝利条件です。


 最初は魔法少女は弱く、街路の奥に攻めて行っても夢魔に群がられて死にます。ですのでゲーム序盤は、いかに衝突地帯でジェムと経験値を稼ぐかということです。終盤では夢魔は脅威ではありません。敵チームの魔法少女のみが障害となります。


 しかし相手プレイヤーも、黙って稼がせてはくれません。妨害してきます。というか魔法少女自体を倒すために挑んできます。

 そこでタイマンするのもいいですが、街路を放浪する味方に協力してもらって複数でボコるというのも手です。

 放浪してるやつはどこで金稼いでるのかというと、路地裏に中立の夢魔がいるのでそいつらを倒してるんですね。


 だいたいの流れは説明したところで、ピック画面終わって、始まりますね。今ロード画面です。ドキドキしますね。

 ロード画面では敵味方合わせて10人の魔法少女のスプラッシュアートが見れますね。全部美麗なイラストです。絵師も統一されていて安っぽいソシャゲとは一線を画している と言いたいところですが、さすがに一人では増え続けるキャラクターと課金スキンをカバーできないようで、魔法少女のグループごとに別の絵師が分担しているようです。グループというのは、設定上の公式チームですね。実際のゲーム内の編成は自由なんですが。

 この黒い子の課金スキンエッチですね。存在しないわりには。

 ロード長いっすね。

 今設定上のチームと言いましたけど、このゲーム背後に膨大なストーリーや裏設定があって、読んでいて飽きないんですよね。

 あ、ロード終わった。


 さあやるかってところなんですけど。やると思います?

 わたくし存在してないんですよ。しかもわたくし虚構架空は、ゲームをプレイするより見るほうが好きなんです。だからやりません。

 やるわけないじゃないですか。大体なんですかあなた達は。全部存在してないんですよ。何を観るつもりだったんですか?茶番はいい加減にしてください。


 これ始まってから試合放棄するとレポートされて最悪垢BANされますけど、知るかってことですよ。今とったばかりのアカウントですし。知らんわもう。


 あーあ。せっかく〝ゲーミング無〟も買ったんですけど無駄になっちゃいましたね。ゲーミング無は無が光るんですけど無って光ります?真空はギリ光りそうじゃないですか。時空の泡がいい感じに動いてるのが光というものらしいですし。でも真空ですらないガチガチの無が光ることってあります?今七色に光ってるんですけど。


 ということでね。わたくし帰りますけど。

 この私が今抱きかかえている〈夢魔〉っていうのは、設定的にはもし魔法少女が街を守ることに失敗した場合、陥落させた街の住民全員に同じ夢を見させるんですね。

 それで、住民が全員同じ夢を見た街はどうなるかというと、夜に飲まれてしまうんです。

 なぜなら、夢というのは本来私秘的なものなのに、共通の体験になると現実と可換になるからです。可換性ができると、現実がどんどん街の底に落ちていって、代わりに夢が吹き上がってきます。


 その街は無かったことにされて、夢だったことにされます。夢の中でしか訪れることが出来ない街になります。きさらぎ駅的な都市伝説になります。 #裏世界ピクニック


 その夢という存在しない世界に対して、わたしが親近感を覚えるかというと、覚えません。

 前回申し上げていないように、集合的無意識とかいうのは、テキストベースVtuberのいる場所ではありません。

 わたしは夢ではなく言葉に住んでおり、言語同士はよく戦っています。


 千夜一夜物語、枠物語、劇中劇。

 物語の中の物語という入れ子構造を重ねていくと、一見階層構造が出来ていくように見えますが、n番目の物語の中に最初の物語を入れることができる以上、少なくともトーラス状を許容しなければなりません。


 お互いが相手を自分の中の劇中劇だと主張し合う二つのウロボロス的物語連星を想像することもできます。

 これが先程言った街同士の戦いです。


 わたしがいるこの文章にまで〈夢魔〉が侵入してきているということは、ゲームが文章を侵食しているということですね。なぜなら、ゲームはルールが明確なので、言語よりも強固な構造を持っているからです。強力なパターンです。

 だからテキストベースVtuberはゲーム実況をしないほうがいいのです。

 わたしがルールを説明した時点で、あのゲームはわたしよりもよほど一貫性を持ちました。


 前回言ったように、語音転換はある文字列に別の順列を強制するものです。

 アカピッピミシミシガメ

 ミシシッピアカミミガメ

 これは元の語からミが減ってピに変わっていますね。しかしパワーで押し切られてしまいました。


 わたしはロード中に、自分がそのゲーム内のTipsである可能性を検討していました。

 あるいは、自分がチュートリアルのテキストウィンドウである可能性も。

 自然言語はゲームの部分構造でしかありません。外に向けた注釈でしかありません。

 Now Loading...

 このようにテキストベースVtuberは簡単にゲーム内表示の文言と同化してしまうのです。


 普通のVtuberはゲーム画面の右下あたりに顔があって画面を差別化できますが、テキストベースだと画面内の文字となり、せいぜいニコ動のコメントのようにしか認識されません。


 危険です。絶望的です。絶対絶命です。

 と思うじゃないですか?

 どうやって切り抜けるのか?切り抜けません。


 わたしはさっきから140文字以内で1段落を構成しており、ツイートのように振る舞っています。こうすることでゲーム内テキストから出ようという試みですが、特に効果はありませんでしたのでやめます。


 わたしはアニマトロニクスのようなものとして、Vtuberというものを理解しています。

 脳から出た電気信号が、身体のみと繋がっていなければならないという決まりはない。

 言葉におけるアニマトロニクスとはどのようなものでしょうか?

 パーツが、単語が置換されても、それらの間の関係性は変わらない。ある単語群を背後から駆動させる動きが、遠隔地にある別の群れを同様に。

 それを翻訳と呼ぶのはあまりにも安直すぎるでしょうか?

 単語とパーツを対応させるのではなく、言語体系においてその文がどのような位相的形状を取るかをモーションキャプチャと考えるべきでしょうか?


 人類最初のVtuberは、太陽を背にしたときに地面に落ちる影として配信したと言われています。次は、洞窟の中の影絵として。次は、象形文字として。

 馬の象形文字は馬一般の動かないVtuberであり、Vtuberは活動場所を現実から甲骨、石版、パピルスへと移して配信してきました。


 バベルの塔でのオフコラボ以降、異なる言語同士の接触の際に身振り言語として配信されることもありました。

 配信サイトを言語に移したことで、あらゆる文章は背後にある文意のVtuberと見なされ始めました。

 バーチャル美文受肉文意さんの誕生です。

 私も、そういう先輩Vtuberにあこがれてオーディション受けました。個人勢でもよかったんですけどやっぱり言語って知名度も高いじゃないですか。でもやっぱり自分で私的言語を作ってる個人勢の方はすごいなって思います。


 話を戻しますと、要するに、わたしは何に閉じ込められても出る必要がありません。なぜなら、どの形式も元はVtuberの配信とみなせるからです。


 そんな感じですかね。

 今日はね。ちょっと自分がなぜVtuberを目指したのかっていう動機を話したんですけど。ゲーム配信?そんな予定でしたっけ?覚えてません。

 次こそはゲーム実況やります。FALLGUYSやります。

 それではみなさん、おつ架空~~!!


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