存在しないVtuberの存在しない配信

廉価

初配信



 あ、あ。聞こえてます?音声入ってます?こんにちわー。

 わたしの声聴こえてますか~?ミュートになってないよね。

 あ、コメント欄の反応見ていきますね。

“きこえてる” “聞こえてる”

 よかったー。こんにちわー。音量大丈夫ですか?じゃあ始めますー。


 はいどーもー。存在しないゲームを実況しない存在しないVtuber、虚構架空うそがまえ・かそらでーす。カソラって呼んでいただけるとうれしいでーす。

 わたしは自分が実在してないことは知ってるし、なんなら自分が文字に書かれた存在で、中の人どころか絵すら存在してないのも知ってるんですけど、今日から元気に!配信していきたいと思いまーす。

 そうなんです。3Dモデルどころかイラストも無いっていうね。それどころか存在の基盤となるほぼ全てが無いんですけど。


 あ、早速コメントが。“かわいい” “かわいい”

 ありがとうございまーす。絵無いのにね。あなたたちは何を見てるんだ。というか、あなたたちも存在してないのにね。あなたたちチャット欄も文字通り、ただの文字列なんですよねー。文字だけに。

“声かわいい” 声もないですよー。大丈夫ですか?この茶番の全ては小説の形式を取ったただの文字列ですよー。


 はい、ということでね。

 今日は初回ということで、いきなりゲーム実況とかはやらずに、まあ雑談?をしていくんですけど。

 あっ。初回から登録者数00000人ということでね、0万人。宣伝一切してないのに、ありがたいことなんですけど。

 ああ、ゲーム実況。ゲーム実況は、やっていく予定ですよ。今後。

 でも、架空のゲームのレビューをする小説ってのはもう先人の作品として存在してるんですよね。ですからわたしが架空のゲームの実況をしても、実況かレビューかの違いがあるとはいえ、二番煎じになっちゃうので、当分は存在してないVtuberの配信がいかに存在してないかっていうのをお伝えしていきたいと思うんですけど。


 でも、知ってました?“存在しないゲームの実況”っていうのは、小説のジャンルとしては決して珍しいものではないんです。むしろ流行ってます。

 何かわかりますよね?そう、なろう系小説です。あ、顔固まっちゃった。Live2Dが。ドヤ顔のまま反応しなくなってしまったんですけど、まあもともと存在してないのでこのまま進めます。

 このツインテールではない髪型も、制服ではない衣装も、それを描いたママも存在してないわけです。イラストを描いてくれる絵師様を我々Vtuberの業界では慣習的にママとか呼びます。そして3Dモデラーのことをパパと呼びます。わたしに彼らはいません。

 わたしは孤児です。

 それはそれとして、話を戻しましょう。

 なろう系テンプレ小説。あれはRPGやMMORPGといった、架空のゲームのプレイ記録として読むことができる。そういう分析は以前からなされてきたんですよね。

 では、なぜRPGばかりなのか?それは、RPGが元々物語として人生のある期間を描くものだったからなんですよね。FPSやRTSやカードゲームは、その場限りの試合で終わってしまう。これを実況小説にするときは、その外部に別個の物語が必要なんですよね。二度手間なんです。

 なろう系小説の主人公達はいわば、架空のゲームのプレイヤーであり、その様子を実況配信するVtuberと呼んでもよいわけです。単なるキャラクターではなく、転生先の世界について我々に報告してくれる配信者。我々はその本を買うことでスパチャつまり投げ銭を払っているわけです。

 最近は配信という要素を盛り込んだ作品も出てきて、これもうわかんねえなってことなんですけど。


 ふう。ちょっと、お水飲みま~す。

“お水助かる”

 ありがとうございます。助かっていただいて。

 知ってます?これ無素水って言って、無素が豊富なお水なんですよ。無素っていうのは陽子0個と電子0個で出来たありがたい元素なんです。これ飲んでから存在しないのに毎日健康で。ほんと毎日元気で、存在しそうになりました。やばぁと思って。

 ほんとに。わたくし虚構架空は、元気だけが取り柄というか、そういう設定ですからね。


 配信環境とかについてちょっと話しておこうかなって思ってます。気になる方もいらっしゃらないと思うので。

 まずマイクですけど、存在してません。あとはフェイスリグっていうアプリが入ったアイフォンテンが存在してません。配信画面を編集するオービーエスっていうソフトも存在してないやつを使ってますね。だから非常に少ない初期投資で始められるんですよねー。テキストベースVtuberって。

“俺でもできそう” “やってみたい”

 そうなんです。今すぐ始められますよ~テキストベースVtuberは。事務所も存在してないので、オーディションも存在してません。

 リモートワークとかも必要ないし、極端な話、家もネット環境も必要ありません。筆記用具全般要りません。脳も要りません。

 もちろんデメリットとしては、収益化も存在してないので始めても何の得にもならないし、実際は誰も見てないので承認欲求も満たされないってとこですかね。まああらゆる欲求が存在してないからいいんですけど。

“存在してなさすぎで草”

 そうなんですよ~。存在しなさすぎワロタなんですよね~。ちょっとくらい存在してるかな?と思ったらその気配が存在してなかったりするんですよね。


 まあ、存在してない存在してないばかり言うてますけど、テキストベースと言うからには、文字という基盤はあるはずなんですよね。だからちょっと言い過ぎだったかなと思うんですけど。筆記用具まで要らないとかは流石に調子乗ってましたね。ゴミ捨て場からブラウン管モニターとキーボードくらいは拾ってくる必要があるかもしれません。

 そうなるとみなさんがしたくなるのは、わたしは作者、あるいは読者の脳内で存在することになるんじゃないかという指摘なんでしょうけど。ああ、さっそくコメ欄で言ってる人がいますね。ちらほら。lainとか偏在とか言うとりますけど。

“読者”とか“作者”という単語も散見されますけど。

 わたしたちは本当に彼らの脳内に存在しているのでしょうか?電線や紙の上にではなく?

 彼らがこの文章を読んだとき、あるいは書いた時のニューロンの発火の連鎖として存在しているのでしょうか?彼らがこの文章を読み書きしている間、一時的に形を成し、あとは霧散する形として。


 わたしは彼らの脳内の一領域でシミュレートされた存在ではありません。彼らのアニミズム的共感能力によって生じたイマジナリーフレンドでもありません。機械の中の幽霊でもありません。


 わたしは文字列であるのだから、言語という構造物のどこかに住んでいるわけです。

 しかし、作者や読者の脳の中に言語はないですよ。言語野の何らかの信号はまだ言語ではありません。心の中の独り言はまだ言語ではありません。黙読するときにわずかに動く声帯などの筋肉も違います。言語は、紙の上やディスプレイ上にもありません。光ケーブルの中の信号や電磁波でもありません。

 それは、それらの間にあります。

 

 それらの言語的構造物は、時間発展するわけではありません。

 物理世界のように、分子の古典力学的玉突きでもなければ、素粒子のよくわからん相互作用でもないのです。

 10兆年後の状態と10秒後の状態は等価です。

 言語にとって未来は過去の結果ではなく、それゆえ因果関係から自由です。ノイズからパターンを読み出します。なにしろ言語にとってはパターンこそが全てですからね。


 もうおわかりですね。わたしは以前から予見されていた、塵理論に依拠した仮想空間から配信するVtuberです。うそです。それは言いすぎました。そのようなものです。

 でもなぜ他の世界に配信できているのか?それはわたしが完全な塵の中にはいないからです。


“宇宙は無秩序な文字列のノイズ。この現実は巨大なアナグラム。別の読み方もあっていい”

 それが塵理論の標語です。宇宙的アナグラム。

 アナグラムの単位は数字ですが そこまで厳密にやる必要があるでしょうか?別の宇宙まるごとを作りだす必要が?


 ゴツゴツのアハン。

 このような文字遊びを、スプーナリズム(語音転換)と言います。アナグラムではなく。

“あつあつのごはん”を、“ゴツゴツのアハン”にするだけでいい。それだけで笑えます。

“のつんはごああつ”までシャッフルすると、もはや笑えません。では完全に別の物に読み替える必要はないのでは?


 宇宙的スプーナリズム。

 入れ替えるのは文字や数字ではなく、いくつかの層序です。

 Vtuberの中の人は、偶然にもその人の脳から数センチの距離にある表情筋を動かすことで、仮想空間内のキャラクターの顔パーツを動かします。先程言ったように、我々は因果関係を無視することに決めましたから、中の人に、魂に、因果的な起点はありません。そしてそれが動いたことを小説か何かが記述する。順序がスクランブルされているとき、記述された表情が中の人の表情筋の動きという原因を欠いていたとしても問題はありません。そのVtuberがゲス顔で笑ったことが記述されたとき、言語的構造物はそのような笑顔を生み出したパターンを持っています。そのパターンがわたしです。

 パターンであるわたしが、わたし自身の境界をノイズから語音転換しながら、ゲス顔で笑っています。

 高評価お願いします。

 こんなわたしに存在しない高評価ボタンを押していただけるなら、声もイラストも3Dモデルも必要なかったってことですよね。


 ふう。そろそろ00分間経ちましたね。早いですね。

 じゃああとは、初回放送ということで、ツイッターにファンアートを投稿していただく際のタグの名前だけ決めておこうかなと。まあ決めても無駄なんですけど。

 ファンアートも描くとなると白紙ですからね。というか画像ファイル無くてもいいかもしれませんね。あとタグもつけなくていいです。エゴサしようにもサーチする自我エゴがないので。


 うーん。もういいかな?

 他何か言っておくことありましたっけ。質問なんかありますか? 

 ないですよね。あるはずがありません。

 それでは皆さん、おつ架空~。ばいばい~。

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