第5話
「ただいま。」
外の空気より寒さを感じる。まぁ家の中はいつもこんなんだ。人の気配はするがおかえりの言葉はやってこない。ここでは私は機械と化さないと生きていけないのだ。
「おい、お前。帰ってきたならなんか言えよ。」
母親が怒鳴ってきた。言ったのに。それもきちんと扉の前で。聞こえなかったのはそっちじゃん?なんであたしが謝らなきゃいけないの。そうは思うけど言えないのは私が臆病だからか。
「ごめんなさい。」
意思とは反対の言葉が口をついて出る。
「声が小さい。口も開いてないから何言ってんのかわからない。よくそんなんで会話がお友達とできるよね。」
勝手に想像をするな。私が思ってもいないことをスラスラ並べていい気になってんじゃねぇ。
「口が小さくしか開いてなくてすいません。聞こえやすいよう配慮して喋るようにします。」
おはようや、ありがとうの言葉よりずっと多く使っているような気がするこの言葉。生き抜いて行くためには必要なのはそうだけどさ。
「生意気な顔してんじゃねぇよ。怒られてる最中だぞ。反省の念もねぇってか。」
一方的に捲し立てられるのは日常。真顔はあの人にとって生意気な顔と映るらしい。じゃあどんな顔をしろと言うのだ。泣けば怒るし、笑うのは論外だろう。
長々と続いた小言も終わり部屋に入って雑用を済ます。私はここでは完璧でなければならない。言われたことはすぐに行いやり残しのないように。勉強と家事を両立させ、いい点数をとってくる。家事は文句の言いようも無いほどにこなす。幼い頃からやってきた習慣は日常の一つのコマとなり普通になっていた。普通じゃ無いと気がついたのは中学生の時だっただろうか。二人といなかった友達の家のことを何かのきっかけで喋ってくれたとき、まったく違った様子にびっくりしたのを覚えてる。だけど心のどこかで安心した。あぁ、私のあれは異常なんだって知ったのに安心したんだ。変な感じがしたよ。
「ただいま。ポッポ。」
家での私の会話の相手はぬいぐるみのポッポのみ。何も言ってくれないけど愚痴を一方的に話してるだけだけど。でも心がスッキリするんだ。ポッポがいなきゃ今私はどうなってたんだろう。タバコにでも手を出してかな…。
「今日も大変だったんだ。疲れたな。」
『宿題があるんじゃ無いの?やんないと。』
頭の片隅からようこそ。あぁーあの歴史のやつね。やるやる。でもちょっと休ませてよ。
『そんなことしたらまたなんか言われるのがオチだね。』
正論をどうもありがとう。
あ、怒って引きこもっちゃったよ。ねぇごめんってば。
そういえば明日キャンプって言ってたな。親は知ってる筈だけど…。もう一回言っとこう。何が必要だったけな。
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