3.5

 闇の中で、ひとりぼっちだった。

 自分の姿さえ定かで無いのっぺりとした景色。

 何処にも行けるはずがないと思っていた。

 とても寂しい場所だった。世界の端っこで、忘れ去られたみたいな孤独。

 

 何かを見つめていた。

 誰かであるような、誰でもないような。

 小さな女の子がふたり。並んで歩いている。


「まりちゃん」「なぎちゃん」


 暗闇に怯えているようだった。

 何も見えない不安は、恐怖を増長する。


「なぎちゃん」と呼びかけられた少女は、凍えて動かなくなってしまった。


 ふたりぼっちは、ひとりぼっちになってしまう。

 そこに、魔女の指先が現れた。

 魔女は倒れた少女の胸に触れて、明かりを灯した。

 すると、息を吹き返したように蘇った。


「すごい」と、自分の声と、誰かの声……「まりちゃん」と呼ばれていた少女とが重なった。


 そこで、はじめて「まりちゃん」の姿が浮かび上がった。

 ……わたしだ。小さい手に、大きな瞳。

 紅玉の瞳に魔法への興味を輝かせて。

 魔法使いになりたい。

 心の底から、そう思ったのだ。


 ◆


 深海の底に揺蕩たゆたうみたいだ。

 暗闇に閉ざされて、時折水面に浮かび上がろうとしてみる。

 ここでなら、誰の目も気にならない。

 ここでなら、誰にも傷つけられることはない。

 そう思っていたのだけど、ここもやっぱり息苦しい。

 酸素を求めて、水面に向かう。

 水面からは、向こう側の景色が見えた。

 

「え――?」


 見覚えのある少年の胸に、無骨な剣が突き立っていた。

 

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