第52話 冬休み
途中から三人称になります。
そこからは背後注意推奨です。
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年末が近づいて来た、もうすぐ冬休みになる。
見習いは基本的に学校の冬休みと同じ期間休みがある、騎士達は前半と後半交代で休みがあるらしいが。
アドルフ兄様達はカウントダウンの王宮でのパーティーに夫婦で参加するだろうから、オレはルードルフと仲良くお留守番予定だ。
カール兄様はきっとお仕事だろう。
年末年始の見習い達は天涯孤独か余程家族との折り合いが悪い人以外寮から居なくなる。
冬休み初日、それぞれ年末の挨拶を交わして帰宅して行く、俺もサミュエル先輩と玄関で挨拶を交わして帰宅しようとした。
すると後ろからいきなり羽交い締めで拘束された、見上げるとヨシュア先輩だった。
「おいおい、俺には挨拶無しで行く気か? こんなに可愛がってくれた先輩に対して? そりゃあ薄情ってもんじゃねぇの?」
首を横にゆっくり振り、ふ~っとため息を吐く。
「ヨシュア先輩のは可愛がったというより絡んだの間違いでは?」
ジト目で見上げていると悪戯を思い付いた時の目をして俺を見下ろしていた。
嫌な予感がしてもがいて離れようとするが、ビクともしない。
「そーんな可愛くない事を言う口はここか? 塞いでやろうか?」
ニヤリと笑って舌舐めずりを見せつける様にする。
ヨシュア先輩の場合は揶揄う為にだけに本当にやるタイプだ、腕を両脇の下に潜らせ動きを止めた状態で、両頬を摘んで引っ張っられて動けない。
「ふぉこはふちじゃなふてふぉーでふふぉ!」
頬が引っ張られて口をすぼめる発音ができない。
「あーん? 何言ってるかわかんねぇなぁ?」
心底楽しそうにニヤニヤと笑いながら尻尾を揺らす。
「いい加減にしろ」
「いだだだだだ!」
何かいつか見た光景な気がする、サミュエル先輩がヨシュア先輩の頭にアイアンクローで攻撃している。
痛みに耐え切れず手を離すヨシュア先輩。
「はぁ~、助かりました。 ありがとうございますサミュエル先輩!」
両頬をさすりながらお礼を言う。
「いいから今の内に行け、また休み明けにな」
いつもの優しい笑顔を見せてくれた。
「はい! ではまた休み明けに!」
ヨシュア先輩に追いかけてられない様に走りながらサミュエル先輩に手を振って遠ざかる、サミュエル先輩も手を振り返してくれた。
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クラウスの姿が見えなくなり、やっとサミュエルはヨシュアの頭から手を離した。
「おい、サミュエル。 お前クラウスに対して過保護過ぎじゃねーか? カール様並だぞ?」
「あんな小さい子供にタチの悪い悪戯を仕掛ける奴が悪いだろう、クラウスはお前と違って汚れてないからな」
フン、と鼻で笑う。
「そんな事言って、結構気に入ってるだろ? ただの嫉妬じゃないのか?」
「幼い者を護りたいというのは俺にとっては本能的な欲求だ」
少々ムッと不機嫌さを表に出して答える。
「あとさぁ、新雪に最初に足跡付けたいというか、真っ白な物を汚したいっていう欲求ってあるだろ? それに単純に可愛いって思ってるっていうのもある」
今度こそヨシュアに敵意を見せて睨み付ける。
「クラウスにそんな汚れた欲を向けるな」
低く唸る様にヨシュアに警告する。
「はいはい、でもよ、お前も獣人なんだから気付いてるだろ? クラウスがこの騎士団内で唯一の完全なるお子様ってコト」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべ、黙り込んだサミュエルを見つめたまま話す。
「アルフレートは俺に気付かれた事に気付いたっぽいが、ライナーはバレてないと思ってるな。 気にしてないだけかもしれないが。 いや~、ウブな少年の反応が楽しくてさぁ!」
「おい」
「おっと、お前はバラす様な事しないと思うが黙っておいてくれよ? クラウスが知った時の反応が楽しみなんだからさ。 じゃ、また休み明けにな!」
言いたい事を言ってヨシュアは荷物を持って駆け出して行った。
サミュエルはヨシュアがクラウスの事を気に入ってるのは気付いていた。
本能に忠実で気に入ったからという理由で手を出そうとする事は知っているが、合意でなければ手を出したりしない事も知っている。
ただ今回はいつもと違うので判断しかねる、相手が小さいから揶揄って遊んでいるのか本当に手を出したいと思っているのか。
サミュエルは先程「嫉妬じゃないのか」と言われた時に心臓が跳ねた気がした。
庇護対象と認識している者が他の者に懐いて見えたからなのか、幼いクラウスを自分だけで護りたいと思う独占欲の様なものかわからないが少なからず動揺したのは事実だ。
そして騎士団で唯一の完全なるお子様という事実を知ったクラウスの反応も自分も見たいと思ってしまった。
今のところクラウスに対して情欲というものは持ってない。
娼館に誘われたら付き合いで行くだろうし、特に男が好きでもない。
性欲の解消手段として男が相手でも平気というのもまた事実だ。
サミュエルは既に十四歳になっている、あと一年の間にクラウスの身体が大人になって発情の匂いを放つ様になったら自分の気持ちに変化が起こったりするのか少々不安になる。
自分以外の者に守られるのも嫌だと思う反面、自分と部屋が分かれる時まで子供のままでいて欲しい気持ちもある。
しかし、最近のクラウスを見ている限り色恋なんかより甥を可愛がる事に全力なので、そんな姿に安心させられているという事実に思わず苦笑いしてしまう。
「その時が来ればわかるか…」
そう呟いてサミュエルも自宅へと足を向けた。
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