第51話 第二王子の誕生日、同日

 今日は見習いの休日、だがしかし騎士の皆は大忙しだ。

 今日は第二王子の十六歳の誕生日、交代要員として半分は寮に残っているものの、落ち着きがない。


 ぶっちゃけ第三騎士団は街中の警備が主なのでそんなに気を張る事もないんじゃないかと思ったのだが、他所の領地から王都に入ってくる貴族の確認等で数日前から大変らしい。


 雨等で足止めをくらい、駆け込みで来る貴族も多いらしい上に、それに便乗して他国のスパイなんかも入って来る可能性が高いとか。


 しかしその日、俺とアルフレートは朝食を食べると二人で出掛けた。

 行き先はライナーの実家である。


 実は今日は第二王子だけじゃなくライナーの誕生日だったりする。

 そんな訳でライナーには何も言わずマリウスさんと連絡を取ってお祝いする約束をしている。


 何気に浮き輪で小金が入ったのでプレゼントもちょっと良い物にした。

 しかし、俺の周りには冬生まれが多い。

 あれか? 日本と同じく春が恋の季節だから冬に産まれるパターンなのか?


 ちなみにこの世界ではエアコン魔導具ができるまで春生まれが極端に少なかったらしい、やはりエアコンの無い状態で夏にイチャつくのはキツかったんだろう。


 なんとかライナーに見つからず寮を出発し、ライナーの実家にお邪魔すると、マリウスさんが笑顔で出迎えてくれた。


「いらっしゃいアルフレート君、クラウス君。 本日はライナーの為に来てくれてありがとうございます! ささやかな席ですが楽しんで頂ければ幸いです」


 中に促され他の家族にも挨拶する。

 母親のデボラさんと長兄のレオさんは初対面だ。


「ライナーの母のデボラでございます。 いつもライナーと仲良くして下さってありがとうございます」


 優し気な中に凛とした筋が通った人に見える。

 髪も瞳もライナーと同じ色合いで可愛らしい印象だ。


「兄のレオと申します、お見知り置き下さい」


 母親と同じピンクブロンドに父親と同じ濃い青い眼をしている。

 顔立ちはライナーと似ていて可愛い系だが顔つきの印象が強めで総合的にはインテリ眼鏡という言葉が相応しいだろう。


 ふと以前ライナーが言った言葉を思い出した。


『クラウス、僕が欲しいのはや・さ・し・いお兄さんなんだよ、損得でしか動いてくれない腹黒い兄さん達じゃないんだ』


 ちょっと納得してしまった。

 確かに損得勘定優先で動きそうな理性的というか、頭が良さそうに見える。


「ライナーおかえり!」


 店先からフォルカーさんのいつもより大き目の声が聞こえた。


「ささ、この衝立の裏に隠れて下さい」


 デボラさんがとても楽しそうに俺達を誘導すると、すぐにライナーが現れた。


「ただいま~! クラウスとアルフレートにも声を掛けようと思ったけど、出掛けたみたいでいなかったんだ」


 少ししょんぼりした声にくすぐったい気持ちになる、俺達がいなくて寂しいなんて可愛い奴め。


「ふふ、私達からの誕生日プレゼントの一つよ! さぁ、どうぞ!」


 デボラさんの声に合わせて俺とアルフレートが衝立から飛び出した。


「「ライナー、誕生日おめでとう!」」


 ライナーは三秒程目を見開いて驚き、すぐに破顔した。

 その嬉しそうな顔にこちらも嬉しくなる。


「はいコレ、プレゼントだよ。 俺と色違いの財布にしたんだ」


 俺は革細工の財布を渡した、以前見たライナーの財布は革袋に硬貨が混ざり合って入っていたので、硬貨毎に差し込むタイプで走ってもジャラジャラ音がしないのだ。


 たまに硬貨の音で所持金目当てのスリや強盗に目を付けられる事もあるのでいつか渡したかったから丁度良かった。


「俺からはコレだ、ブルームで俺達と被らない男性向けの香りにしておいた」


 アルフレートはブルームのバス用品セットにしたらしい。

 確かに年少組で使ってないのはライナーだけになってたから喜ぶだろう。


「うわぁ~! 二人共ありがとう!! 来てくれただけでも嬉しいのに、こんな素敵なプレゼントまで!」


 さっきまでしょんぼりしていた状態から一転、目を潤ませて喜んでくれた。


「ふふ、ちょっと不敬だけど俺達にとっては第二王子の誕生日よりライナーの誕生日の方が大切だからね、正規の騎士になったら仕事でお祝いできないだろうから見習いの間は一緒に祝おう」


 喜ぶ姿が嬉しくて思わずハグをした。


「うう…、嬉し泣きでもさせたいのかい…? ありがとう、その気持ちも凄く嬉しいよ」


 涙声で俺の背中に手を回す。

 ライナーの肩越しにマリウスさんと目が合ったが、その瞳も潤んでいる様に見えた。


「アルフレートも本当にありがとう、僕は幸せ者だよ」


 俺と離れるとライナーはアルフレートともハグをしに行った、友人とのハグに慣れてないアルフレートは戸惑っていたが、受け入れてライナーの背中を優しくポンポンと叩いた。


 その後、皆でケーキを食べたり寮生活の事を面白おかしく報告したり、昼食もご馳走になり、俺とアルフレートは先にお暇して家族水入らずで過ごしてもらおうとしたがライナーは一緒に寮に戻ると言った。


「いつも一緒にいるけど、今日は特に二人と一緒に居たい気分なんだ」


 そんな事を言われて俺とアルフレートは顔を見合わせ、照れ臭くて笑ってしまった。

 結局午後のお茶の時間まで皆で会話してから帰った。

 騎士団寮での第三者の目で見たライナーの普段の生活状況を確認出来てデボラさんも安心できた様だった。


 帰り道、ライナーはプレゼントをマジックバックに入れて運ぼうかという提案を断り、幸せそうにプレゼントを抱えて寮まで戻った。


 その夜、ライナーは同室のゲルト先輩にその部屋に代々伝わる本を誕生日プレゼントとして譲り受けたらしい。

 どんな本か見せてとお願いしたが、せめて十二歳になってからと見せてはくれなかったので、きっとお年頃の少年達を何年にも渡って慰めてきた本だろう。


 ちょっと見てみたい気はするが触りたくないと思ってしまったのは仕方ない事だと思う。

 後日、アルフレートに見せてもらったか聞いたら黙秘を貫かれた。

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