第50話 鎧磨き
朝の洗浄係の仕事が終わり、中庭へ移動しようとしたらアルバン訓練官が訓練場の武器庫前に集まる様にと言いに来た。
武器庫前に行くと第一寮と第三寮の非番らしき騎士達も集まっていたので何事かと思えば、第二王子の誕生日パーティーが間近に迫って来たので各地から貴族が集まる為、見栄えを良くする為に鎧を磨く事になったそうだ。
第二寮は基本的にローブ着用なので今回は居ない、アルフレートが安堵の息を吐いていた。
ちなみに非番の騎士達には休日出勤手当がでるので不満な顔をした者は居ない。
ついでに暫く使われてない物も整理しようと言う事になったらしい。
俺とアルフレートは清浄魔法係、しかしそれだけでは汚れが落ちるだけで傷が無くなったり艶が出るわけではないので修復係としてドワーフが来ているんだとか。
その場で簡単に修復できる物と、ちゃんと時間を掛けて修理する物を仕分ける為に、先に水属性の俺達が清浄魔法を掛けた物をドワーフの所に持って行くらしい。
ドワーフは見たことが無かったので少しずつジリジリと汚れた鎧や武器を受け取る場所をドワーフが居る方へズレながら受け取っていた。
「おい、クラウス。 ちゃんと集中しろよ? 何に気を取られているんだ?」
早速アルバン訓練官にバレた。
エヘっと笑って誤魔化してみたが、眉間のシワが取れてない。
「ドワーフの方を見た事が無かったので会ってみたかったんです…」
俯いてしまいそうになるが、なんとかアルバン訓練官の目を見て正直に話す。
「上目遣いで悩殺とは…、やるねクラウス」
「しかしアイツは何も考えずにやってるから始末が悪いんだ」
何やら兜をいくつか手に引っ掛けて運んでいたライナーと清浄魔法を掛けているアルフレートがヒソヒソとこちらを見て話しているが内容は聞こえない。
人が怒られてるところを見て高みの見物かチクショウ。
アルバン訓練官は諦めた様に長いため息を吐いて、ガリガリと頭を掻く。
「わかった、じゃあ頑張ったらご褒美にドワーフの職人と昼休みに話が出来る様に頼んでやる」
それを聞いてやる気が上がった。
「はい! 頑張ります! ライナー、どんどん持って来て!」
振り返ってライナーに声を掛ける。
その声が聞こえたのかヨハン先輩やクルト先輩が俺の所にドンドン鎧を積み上げて来た。
先輩達非番だったんだ…。
「おお~、クラウスはやる気いっぱいだなぁ。 ほら、先輩から仕事をやろう」
「偉いな、やる気があるのはいい事だ、微力ながら応援しよう」
二人共作った似非臭い笑顔で置いて行くのでついムキになって次々と清浄魔法を掛けて行く。
そんな俺の姿を面白がって他の騎士まで俺の所に鎧を持って来てるし。
もう何回魔法を使ったかすら分からないくらい掛けていたら、気持ち悪くなってきたと思ったら突然目の前が真っ暗になった。
「気がついたか?」
目を開けると救護室のベッドでアルバン訓練官が覗き込んでいた。
えーと、何が起きたんだろうか…?
ぼんやりする頭で意識を失った時の事を思い出してみる。
「あ、もしかして魔力切れを起こしてしまったんですか?」
「もしかしなくてもそうだよ。 まぁ、煽った俺も、調子に乗ってお前の前に甲冑を積み上げた騎士達も悪いんだがな」
サラサラと前髪を除ける様に俺のおデコを撫でる。
「うん、顔色はかなり戻ったな。 気分は悪くないか? もうすぐ昼食だが食べられそうか?」
「はい、ちょっとぼんやりしてる気がしますけ大丈夫だと思います」
大丈夫とアピールする様にニッコリ笑う。
「あと十分程で昼食だから、それまでゆっくり休んでおけ。 倒れるまで頑張ったんだからドワーフと一緒に食べられる様に手配しておくよ」
そう言うとアルバン訓練官は救護室から出て行った。
魔力切れなんて魔法を習い立ての頃以来かもしれない、家庭教師に魔力切れで意識を失った時に襲われたら死に直結するから魔力の残量は常に意識する様にと教わった。
この事が家庭教師にバレたら説教ものだ…。
ちょっと、今日はムキになり過ぎてしまった、反省。
昼食の時間になり、アルフレートとライナーが迎えに来てくれた。
食堂に行くと三人のドワーフがアルバン訓練官と食事を始めていた。
その前に置かれた量は騎士達の二倍はあると思う。
自分達も食事を持って同じテーブルに向かうと、ドワーフ達から声を掛けられた。
「おう、坊主がワシ達に会いたくて無茶して倒れた奴か、ガハハハ!」
「魔力切れ起こすまで頑張ったんだって? 根性あるじゃねぇか!」
流石ドワーフ、普段鍛冶場にいるせいか声が無駄に大きい。
二人はザ・ドワーフ!と言った樽型体型で低身長で立派な髭が生えた筋肉質のガッチリした逞しい身体付きだが、一人は体型こそよく似た感じだが髭が生えて無かった。
その一人が口を開いた。
「へん! 魔力切れ起こすなんざ半人前ですらねぇじゃねぇか! 騎士団のお荷物になるなら辞めちまった方がいいんじゃねぇのか!?」
こちらを見ようともせず悪態をつく。
「お前自身髭も生えてねぇ半人前じゃねぇか! 人様の事をとやかく言う資格なんざねぇだろ!」
髭なしドワーフの隣にいたドワーフが叱り付ける、よく似ているから親子かもしれない。
「まぁまぁ、俺が半人前以下なのは本当の事ですから。 だから見習いなわけですし。 それに学校にも通えない年齢ですからね」
ヒートアップしそうな二人を宥める。
「ほらみろ、お前よりよっぽど大人じゃねぇか! すまねぇな坊主、ワシはアゼルと言う、コイツは倅のクバードだ。 小さな傷なら直せる様になったから連れてきたんだが躾がなってなくて済まない」
頭を掻きながら謝罪してくれた。
「お気になさらず、俺はクラウスと言います。 ここでは最年少ですので対抗心を持たれたのでしょう、負けず嫌いは向上心に繋がりますから良い事ですよ」
想像通りのドワーフ像で嬉しくかったので、つい饒舌になってしまったらしい。
俺の物言いにドワーフ達のみならずアルバン訓練官やアルフレート達までポカンとしていた。
「ガハハハ! 形は子供だが中身はなかなかの大人じゃねぇか! 気に入ったぜ、お前の武器を作る時は儂が打ってやる。 俺の名前はエラムだ!」
「おお、エラムに打ってもらえるたぁ運が良いな!」
バシンと背中を叩かれた、軽くやったつもりだろうがかなり痛い。
「その時はよろしくお願いします」
痛みを堪えてなんとかお礼の言葉を絞り出した。
その後ドワーフについて色々聞かせてもらった、小説に出てくるドワーフのイメージとほぼ同じだった事に感動し、いつかエルフにも会いたいと言ったら学校に行けば教師として一人か二人居るはずだとアルバン訓練官が教えてくれた。
午後は魔力の急速回復の為の瞑想をしてから復帰し、魔力切れの前には洗浄作業は終わった。
ただし、簡単な傷を修復した物と無傷な物を艶出しの為に磨くという作業が残っていたので、皆で黙々と磨く事になった。
残りのちゃんとした修理が必要な物はドワーフ達が持ち帰って修理と手入れをしてくれるらしい。
使う人が決まってる甲冑の持ち主は呼び出されて調整も行うらしい。
帰り際にアゼルが息子のクバードの暴言は線の細い俺が倒れた事を凄く心配して、また倒れる事があったら大変だから言った言葉だったと教えてくれた。
クバードよ、お前もか。
最近はマシになったがアルフレートに続いて二人目のツンデレ認定者が出た。
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