第31話 あったらいいな
休日の朝、食堂で年少組三人が生温かい視線の中一緒に食事を摂っていた。
「ライナーにちょっとお願いというか、聞きたい事があるんだけどいいかな? できれば商人してるご家族で、この国にある商品を把握してる人がいれば嬉しいんだけど…」
「うん、いいよ。 じゃあ今日ウチに来る?」
「いいの!? ありがとう!」
ふふふ、洋風調味料の存在する世界なら何処かに鰹節が…、そこまでは贅沢言わないがせめて昆布とか…、いや、やっぱり鰹節が欲しい!
あと絶対米! 細長くない日本米タイプ!
味噌もあるといいな、っていうか大豆が存在しているかどうかが勝負の分かれ目だ…!
密かに興奮していると、俺達をアルフレートがチラチラ見ている事に気付いてライナーが声を掛ける。
「アルフレートも暇なら来る?」
「いいのか…っ!? あ、いや、んんっ! 今日は予定もないし暇だったから丁度いい、同行しよう」
咳払いして取り繕っても喜んでるのバレバレだぞ?
俺とライナーはアイコンタクトを取ってクスリと笑った。
準備を済ませて街へと繰り出す、平日は毎日二時間走ってる俺達にとっては商人街まで小走りで向かうのは余裕だ。
「そういえば来月は保養地の側にある海で水練するらしいぞ、海まで行くから二泊三日で泊まりがけだとか」
アルフレートが走りながら切り出した、夏休みの保養も兼ねて騎士達が行くのに年少組も参加させて貰えるらしい。
学校へ行ってる人達は学校のイベントで川にも海にも行くらしい。
三回に分けて交代でいくので任務は問題無いが、第一も第二も一緒に行くのでそれなりの大所帯になるそうだ。
そういえば父様も野営だ遠征だ外交の護衛だと言いながらちょいちょい泊まりで居なくなる事があったなぁ、夏に一際日焼けして帰ってきてたのはそのせいか。
ちなみにカール兄様は寮暮らしなので泊まりであっても休日しか帰ってこなかったので状況を知る事は無かった。
「俺としては水練ならいくらあってもいいけどな!」
日本程湿度は高くないが、夏はやっぱり暑いので最近水魔法でミストを出せる様になった。
去年まで夏や冬は自宅の空調の効いた部屋で殆ど過ごしていたけど、今年は訓練で休日以外は外だから少しでも快適に過ごせる為に努力は惜しまない。
楽をする為と快適なお風呂と美味しい物を食べる事に労力を惜しまない日本人の国民性を魂レベルで受け継いでるな、俺。
いくら美味しいからって河豚の毒を抜いて卵巣を食べられる様にした人とか執念を感じて怖くなるレベルだ。
毒が抜けてるかどうか食べないと判らないんだから、確証が無いのに試したって事だもんな…。
「俺も感覚を忘れない内にまた水練しておきたいから早く行きたいな」
俺の思考が横道に逸れてると、アルフレートがポツリと答えた。
昨日の帰りまでに二人共かなり形になっていたので完全に身体に覚えさせたいところだろう。
「王都内の川は生活排水も多少混ざってるし、人目もあるから水練できないもんなぁ。 水練ができる設備が騎士団の敷地内にあればいいのに」
土魔法と水魔法でプールが作れたりしないかな、小さいやつを試しに作らせてもらえないかアルバン訓練官に聞いてみようかな。
「クラウスは遊びとかも色々面白い発想するよね、夏しか使えない設備なんて誰も作ろうとか思わないんじゃない? なんだか今日も面白い話が聞けそうな気がするよ」
ニコニコと嬉しそうに言うライナー、上手くいけば儲け話にはなるだろうな。
商人街が近づいて人通りが多くなってきたので走るのをやめて歩く事にした。
アルフレートは普段貴族街にある店にしか行った事が無いので物珍しそうにキョロキョロしている。
「こっちだよ」
周りの店に目を奪われているアルフレートにライナーが声を掛ける、放っておいたら迷子になりそうだ。
しばらく歩くとライナーの実家の店に着いた、ライナーの後について店に入るとフォルカーさんがいた。
「兄さんただいま、父さんいる?」
「おかえり、さっき仕入れから帰って来たから居間でお茶でも飲んでるんじゃないかな? クラウス様…じゃなくてクラウス君、いらっしゃい。 もう一人もお友達ですか?」
俺の後ろにいるアルフレートに視線を向ける。
「同期でライナーと同い年のアルフレート・フォン・オレインブルクです。 アル、ライナーのお兄さんのフォルカーさんだよ」
二人にお互いを紹介する、フォルカーさんはオレインブルクの名前を知っていた様で驚いていた。
「オレインブルク伯爵家の御子息様でしたか、弟と仲良くして下さってありがとうございます。 ライナーの兄のフォルカーと申します、以後お見知り置きくださいませアルフレート様」
貴族の対応にも慣れている様で丁寧な挨拶をする。
「うむ、こちらこそよろしく頼む。 それと名前はクラウスと同じ様に呼んでいいぞ」
遠回しに「様」を付けなくていいと言ってはいるが、言い方がとても貴族らしくて笑ってしまった。
「ありがとうございます、どうぞ中へ。 お茶をお持ちします」
「お邪魔します」
「邪魔をする」
居間へ行くと中年男性が寛いでいた、ライナーの父親だろう。
俺達が入って来た事に気付くと愛想の良い笑顔を見せた。
「おかえりライナー、今日はお友達も一緒かい?」
「ただいま父さん、前に話した同期のクラウスとアルフレートだよ。 クラウスが国内で扱ってる商品について色々聞きたいって言うから連れて来たんだ」
父親とハグをして俺達を紹介してくれたので会釈する。
「ライナーの父のマリウスです、初めまして」
ライナーから話を聞いていた為か、貴族に対する礼をとる。
「突然の訪問で申し訳ありません、今日はライナーの友人として来ているので気を使わないで下さい」
「そう言う事! さ、二人共座って!」
ライナーに促されて座ると、使用人がお茶を入れてくれた。
商人だけあっていい茶葉を使っている、アルフレートも満足そうにしていた。
「さて、商品について聞きたい事とはなんでしょうか?」
早速本題に触れてくれた、ありがたい。
「はい、この一覧にある物は存在しますか? 」
言って事前に紙に書き出したリストを見せる。
・米(王都で使われている以外の甘味と粘りのある品種)
・豆を発酵させた調味料
・海産物を使った出汁をとる為の物
・水練時に使える浮く物
リストを見てマリウスさんが目を瞬かせた。
「食品関係は恐らく毎年騎士団が行っている保養地にあると思いますよ。 王都まではなかなか入って来ませんが、貿易港もある街なので色々珍しい物も多いですし。 だからこそ騎士団の保養地を置いて毎年様子を見る様にしているわけです」
「それなら来月行くらしいので見に行ってみます、浮く物に関しては何かありますか?」
食品に関しては希望が見えて来た!
水練用品は無ければアルフレートとライナーの分だけでも作れるといいな。
「水練に使える浮く物ですか…、それは聞いた事がありませんね。 溺れたら木の枝やロープに捕まらせると学校でも習うはずです、後は水魔法使いに助けてもらうかですね」
「じゃあ丈夫な空気も通さない防水紙で袋を作った物に空気を入れて、膨らませてから水に溶けない糊で固めたりできますか?」
マリウスさんはしばらく天井を見てブツブツ何かを言っていた、恐らく俺が言った物を思い描いているのだろう。
ライナーとアルフレートは「そんなのあれば水練の時便利かも」と話し合っている。
ビニールが無いから浮き輪は無理でもフロートやビート板ぽい物なら出来るんじゃないかと思ったんだけど。
マリウスさんは使用人を呼んで紙とペンを持って来させた。
「申し訳ないがどの様な物か絵を描いて頂けますかな?」
言われて封をした大判の封筒の様な絵を描く、描いてみて角が危険かもしれないと思い、子供が腕に着ける筒状の輪っかタイプの絵も描いてみた。
「こっちが捕まる為の物で、こっちは腕に通して使う物です」
「ほほぅ、便利そうですな…。 ウチの売りの防水紙も使えますし、こちらで開発してもよろしいかな? もちろん発案して頂いたのでその分の謝礼はお渡しします」
そんな渡りに船みたいな提案乗るに決まってる。
「是非お願いします、ライナー達の水練に使えたらいいなと思ったので。 川と違って海は沖に流されたら戻って来るのはなかなか大変ですから安心が欲しくて考えたんです」
息子の為に考えてくれた事に感激して、来月海に行くまでに試作品を作って見せると張り切って約束してくれた。
別にライナーだけの為に考えた訳じゃないけど、喜んでくれているならいいかとそのままお願いしておいた。
お礼を言ってお店を出て、お昼を屋台で食べる事にした。
来月まで和食(予定)はお預けだが、見つけた時に買える様にお小遣いは節約しておこう、明日から。
屋台の串焼きにかぶり付きながら決心した。
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