第32話 バス用品
屋台で食事を済ませた後、貴族街に面した商人街で生活用品を買って帰る事になった。
そろそろお風呂の消耗品がなくなりそうだから買い足さないと。
色々な店を覗きながら移動していると夕方に近づいてきた、まだお風呂用品を買ってないので急ぎ足で店に向かう。
「ここがクラウスが使ってる商品を置いてる店だよ」
ライナーが俺の使ってるシャンプー等容器でどこの店か知っていたらしい。
適当な店でそれなりの品を買えばいいと思っていたのにわざわざ連れてきてくれた。
「いつもブリジット姉様に任せてたから店に来るのは初めてだよ」
「お前の使ってる物は品質がいいから俺も買って行こうかな」
アルフレートが髪質をチェックする様にスルリと俺の髪に指を通す。
確かに一度試しに大浴場に備え付けのシャンプーとリンスを使ったら、次の日髪の手触りが全然違った。
店の扉を開けると店員の「いらっしゃいませ」の言葉と同時に、花の様に優しく華やかな香りがフワリと鼻腔をくすぐる。
「ふふ、なんだかクラウスの香りって感じがしちゃうね」
揶揄う様な目でライナーが俺を見る。
確かにこの店の商品を使っているのだから間違いではないけれど、別に香水を使ってる訳でもないのにそんなに香るのか?
「確かに訓練後の風呂みたいな匂いだな、男性用のスッキリした香りの物は無いか?」
アルフレートがライナーの言葉に頷き、店員に向かって声を掛ける。
「男性に人気の物はこちらになります」
愛想良く案内して商品の説明をしてくれる、俺も手に取って香りを確認しようと店員の前を横切ると声を掛けられた。
「お客様…、もしやブリジット様の弟様ではありませんか?」
まさかの言葉に驚いた、ブリジット姉様はここの常連だけど、俺は確実に初めてだし店員さんも確証は無い様だ。
「そうですが、あの…どうして分かったんですか?」
「髪と瞳の色がお聞きした通りでしたし、何よりブリジット様と同じ商品をお使いの様でしたのでほぼ確実だと思いまして」
にっこりと良い笑顔で答えられた。
「実は昨日ブリジット様に商品をお届けに参ったのですが、クラウス様にも商品をお届けする様にご注文されております。 離れていてもご自分と同じ香りを纏って欲しいとおっしゃっていましたよ、とてもクラウス様の事が大切だと伝わってまいりました」
微笑ましいものを見る店員さんの目と、可哀そうなものを見る目のアルフレートとライナー。
「代金も既に頂いておりますし、商品も今頃騎士団寮に届いていると思います」
「まぁ、香りが違えば俺の物と間違える心配も無いし丁度いいだろう。 これを一揃い貰おう、このまま持って帰る」
諦めろと言わんばかりにポンと肩に手を置いて自分の分を注文するアルフレート。
もう届いているのなら仕方ない、この前遊びに行った時に大浴場で香りのせいで「女性が入ってるのかとドキッとしちゃった」と言われた事を伝えたと思ったんだけどな…。
ブリジット姉様の事だから分かっててスルーしたんだろうな、「自分と同じ香り」にこだわって。
仕方ない、今回はお礼の手紙を書いて今度は男性用の香りだと嬉しいと伝えよう。
「終わったぞ、もう他に寄る所は無いな?」
手紙の事を考えていたら支払いを済ませたアルフレートに声を掛けられた。
店を出ると家に帰る人が増えて商人街から人気が少なくなっていた。
一本の通りだけどんどん人が入って行く路があった。
不思議に思ってそちらを覗こうと向かうとライナーに止められた。
「そっちは酒場や花街がある通りだから、クラウスには関係ないよ。むしろ訓練服で行ったとしても危険だからね?」
後半目が真剣過ぎて怖かったのでコクコクと頷いておいた。
でもお酒か…、『私』はカクテルやチューハイみたいな甘いお酒しか飲めなかったけど俺はどうなんだろう、ウォッカやテキーラをストレートやロックで飲んだりするのに憧れたけど味覚とお酒の弱さがそれを許してくれなかったし。
「飲んでみたいな…」
ついポロリと言葉が出た。
二人は歩き出していたが勢いよく振り返って詰め寄って来た。
「ダメだよ!? お酒は十六歳からだからね!?」
「そうだぞ! 成人するまでは絶対飲むな! 初めて飲む時は家族と一緒の時にしろ、いいな!?」
さすがにまだ十歳なんだから飲む気は無いし、二人の剣幕が怖くて再びコクコクと頷く事になった。
そんな遣り取りをしていたら夕食の時間が迫っていたので、帰りはゆるやかとはいえ登り坂をダッシュで帰るハメになった。
帰寮して珍しく遅めの時間に夕食を食べていると、お酒を飲んで帰って来ている騎士が数人居るのに気付いた。
夕食のパスタをフォークに巻き付けながらほろ酔いの騎士達を見る。
そういやイタリアンレストランでビールのツマミに揚げたパスタが付いてくる店があったなぁ…、味見させてもらったら美味しくてもっと食べたかったけど、メニューに無くてビール飲める人の特権だったな。
パクリとパスタを口に入れ、ハッと気付く。
そう、その揚げパスタを食べたくて自宅で再現して作った事はあるからツマミは準備できる、ジュースでノンアルコールカクテルを再現できれば気分だけでも味わえるのでは…!?
フフフと漏れそうな笑いを噛み殺してノンアルカクテルに使えそうな飲み物を思い浮かべる。
「おい、今度は何を考えてるんだ?」
呆れた様な目を向けているアルフレート。
「うん、何か悪だくみしてる顔してる」
コクリとライナーがアルフレートの言葉を肯定する。
「失礼な! 美味しい物と飲みたい物の事を考えてただけだよ。 お酒じゃないから安心してよ」
おかしいな、笑いを噛み殺して我慢したはずなのに顔に出ていたのか…。
自分が思っているより俺の表情筋は素直な様だ、気を付けよう。
後日ノンアルに欠かせない炭酸水が見つからず諦める事になった。
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