第9話 高身長の作り方
部屋で戻ってすぐサミュエル先輩が帰って来た。
「おかえりさない、先輩」
「ああ、ただいま。 初日だったから走らされただろ?」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「やっぱりあれは毎年恒例なんですね、力尽きるまで全力って酷いですよね、走り終わったら後しばらく動けませんでしたよ」
あの時の苦しさを思い出して、苦虫を潰した様な顔になる。
「武器は? もう決まったか?」
「はい、双剣にしました。 サミュエル先輩は何を使ってるんですか?」
まだ湿気っている髪を拭きながら聞いてみる。
「オレ達獣人は放出系魔法は使えない代わりに身体強化が使えるからな、素手でもイケるが両手剣を使ってるぞ、両手剣でも片手で振れるし」
そう言うと得意げにニッと笑う、身体は大きいがそんな風に笑うと十三歳らしく見える。
「獣人はやっぱり身体の成長が早いんですか?」
「そうだなぁ、成人と同じ体格になるまでは身体の成長が早いな、成長しきったら老化は緩やかという場合が殆どだ」
三歳の違いで約四十センチの身長差…、種族の違いのせいとはいえ、つい羨んでしまう。
「お前はたっぷり寝たら大きくなれるんだろ? 今日も点呼前に寝るか? ハハッ」
ワシャワシャと頭を撫でられる、もう絶対点呼前に寝るもんか。
唇を尖らせて恨みがましく見上げると
「じゃ、オレはシャワー浴びてくるから。 夕飯は今日も一緒に食べるか?」
「あ、今日は通学前の年少組で食べる約束をしたんです。 幼馴染との間にあったわかだまりも無くなったので」
ちょっと恥ずかしくなってえへへと笑いながら報告する。
「ああ、あの朝お前のことじっと見てた水魔法使える奴の事か? ずーっと見られてたもんな、早く仲直りしたかったんだろ、良かったな」
「はい、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げてシャワー室へ向かう先輩を見送る。
夕食開始の時間まで少しあるから今の内に日記を書いておこう。
一通り今日の出来事を記入したところで約束の時間になった。
日記に鍵を掛けて机の引き出しに片付けて廊下に出る、三人共同じフロアだからすぐに見つけられる。
現在この寮で一番小さくて最年少の俺、早く身長を伸ばす為にも食事に気をつけてよう。
身長を伸ばす為には良質なタンパク質と亜鉛、適度な全身運動と睡眠だ!
カルシウムは骨を伸ばすのではなく丈夫にするのだ、牛乳はタンパク質もカルシウムも摂れるから優秀だが、牛乳だけではそう身長は伸びない。
今回食堂で選ぶのはまずは野菜、この世界の料理は調味料をしっかり効かせてるので塩気が多い気がする。
緑の葉物野菜は塩分を身体の外に出すのに有効って前世の姉の本で読んだような…。
『私』が高一と高三の時に里帰り出産で出産前の一ヶ月から赤ちゃんの首が座る生後三ヶ月の合計四ヶ月×二回で八ヶ月の間、『私』に子守をさせて自分が遊びに行く為にも色々と叩き込まれた。
お陰でいつでも子育てできるくらいだ。
でも、まさかこんな異世界で自分の為に役立てる日が来るとは思ってもみなかったよ…。
あとは良い筋肉付ける為にも鶏胸肉がいいな~、亜鉛は魚介類か豆類だっけ?
目指せ細マッチョ!
あんまり大きな筋肉付けると身長が伸びないし、動きも阻害されちゃうかもしれないからね!
双剣はパワーよりもスピード重視だし。
きっと兄様達みたいに大きくなったら自然とパワーも付いて来るだろうし。
「何やってんだ? 選んだら行くぞ」
じっくり吟味していたらアルフレートがテーブルへと促す。
ライナーとアルフレートにサミュエル先輩から聞いた獣人の成長の仕方と一緒に身長を伸ばす為の食事の話しをした。
考えてみたら二人も大きくなったらいつまで経っても俺が一番小さいままだと言う事に話してから気付いた、ちょっと凹んだ。
あとは今日の持久走が大変だった事や、
その途中でライナーは魔法が使えない事も発覚した、平民ならば珍しくはない。
剣技を極める為に努力すると宣言したので手合わせの相手が必要なら協力するとアルフレートと申し出た。
なかなか良い感じに交流が出来た充実の夕食タイムだった。
後は既に疲れて眠いが点呼まで起きていれば完璧だ。
部屋に戻るとサミュエル先輩は居なかった、どうやら入れ違いで食堂に行ったようだ。
眠い…、しかしまだダメだ。
しばらくしてサミュエル先輩が戻って来たので、眠気覚ましを兼ねて話しをして時間を潰した。
上の瞼と下の瞼が仲良しこよしになりそうになった頃、点呼が始まった。
全員廊下に出てフロア長の見習い最年長である今年十五歳のマックス先輩が名簿を手に一人ずつ名前を呼び、返事をしていく。
俺とサミュエル先輩の点呼をとると、ちょっと厳つい見た目にそぐわず優し気にクスクスと笑う。
「今日は起きてたな、でももう限界だろ? 点呼はしたから部屋に戻っていいぞ、身体が揺れて今にも寝そうじゃないか、目も殆ど開いてないぞ」
顔を覗き込まれている気配がするが、ほぼ目を閉じているので見えてない。
「眠いのは事実です、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
点呼は終わったので半分寝ぼけた状態でペコリと頭を下げて部屋に戻り、ベッドに倒れ込んでからの記憶がない。
翌日の朝食時も同じフロアの人達の視線は生温かかった。
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