第10話 筋肉痛は治癒魔法禁止です
朝、サミュエル先輩と共に食堂へ向かう。
何度も何度も心配そうな顔で振り返り、とうとう見ていられなくなったのか
「クラウス、抱き上げて連れて行こうか?」
俺を気遣ってくれているのはわかるが、その優しさがツライ。
何せその原因が持久走と使い慣れない武器を扱ったせいなのだから。
そう、完全なる筋肉痛である。
知らなかった、こんな子供の身体でも筋肉痛になるなんて。
前世で小学生が筋肉痛になったってあんまり聞いた事ない、大体中学生くらいからのイメージだ。
「ありがとうございます、大丈夫なので先に行ってもらっていいですよ?」
一歩歩く度に色んなところが痛むのでヒョコッヒョコッと変な歩き方になってしまう。
心配そうにしながら俺の速度に合わせて歩いてくれるので申し訳ない。
食堂に着くとアルフレートが食事をしていた、普通に動いている様に見えるがよく見ると歯を喰いしばってるのがわかる。
あ、スプーンを持つ手が震えてスープが飲みにくそうだ。
周りの目が生温かい、昨日点呼の時に半分眠っていたせいかと思ったがそれだけではない様だ。
なぜなら後からプルプルしながら現れたライナーも同じ様な視線を向けられている。
朝の挨拶を交わして二人共プルプルしながらトレイに食事を乗せてテーブルに向かう。
サミュエル先輩もライナーと同室のゲルト先輩も苦笑いしながら待っていてくれた。
「いただきます」
ポソッと呟いて食事を始める。
アルフレートみたいにスプーンを持つ手が震える、周囲の生温かい視線がツライと思っていると。
「二日目の筋肉痛はこの時期の風物詩なんだよ。 学校で少しずつ体力つける十二歳以上はともかく、お前らみたいに早くから見習いになる奴らは必ずそうなってるから懐かしく思ってる奴も多いだろうな」
クックッと喉を鳴らして笑いながらサミュエル先輩が教えてくれた。
という事は来年は俺が生温かい視線を送る立場になるのか…。
「僕もライナーと同じ十一歳で入ったから同じ様になったよ。 筋肉痛が痛いからって治癒魔法掛けてもらっちゃダメだよ?」
ゲルト先輩が可哀想だけど、と前置きして教えてくれる。
「筋肉痛は筋肉の繊維が部分的に切れてるから痛いのは知ってる? 痛みが無くなった時点で切れる前より強い筋肉になってるんだけど、治癒魔法かけちゃうと繊維が切れる前の状態に戻るから筋肉が育たないんだよ」
サミュエル先輩がゲルト先輩の言葉を聞いて力強くうんうんと頷いている。
「ゲルト先輩は俺の一つ上だから色々教えてもらえるぞ」
青い髪で緑の眼をした優しいゲルト先輩は
「僕に教えられる事ならいつでも聞いて」
と、穏やかに微笑んだ。
ライナーの同室の先輩も良い人で良かった。
「ああ、この腕で洗濯しないといけないかと思うとキツイなぁ。 昨日あんまり上手に汚れが落とせなかったんだよね…、だから今日も自分で洗濯しなきゃ」
しょんぼりしながらライナーが零した。
「クラウスはもう
はぁ、とため息を漏らす。
「ヘェ、クラウスはもう
「はい、わかりました」
コクリと頷く。
どうやらゲルト先輩も水魔法が使えるらしい。
朝食を食べ終わりゲルト先輩と二人で洗浄室へ向かう、変な歩き方をしているのを見かねたのか、さりげなく手を腰に回して補助をしてくれた。
百八十センチ近くありそうなゲルト先輩には小さい俺を支える体勢がキツそうに見える。
「ありがとうございます」
お礼を言うと
「僕にも身に覚えがあるからね」
と、笑って言ってくれた。
洗浄室の中には入団年別になった棚があった。
「こっちがクラウスが担当する棚だよ、一段で衣類籠が十並べられるようになってるんだ。 まだ洗濯が上手に出来る子は少ないから楽だね、クラウス以外に一人だけだよ。 数日後には十人全員分に増えると思うけどね」
そう言うとゲルト先輩は自分の担当の棚の籠に手際よく
俺も昨日と同じイメージを思い浮かべる。
「
仄かな光に包まれて衣類が綺麗になった。
「お見事! 凄く綺麗になってるじゃないか、馴れれば身体にも使えるから遠征や野営の時に便利だよ」
野営で身体が清潔に保てるのはありがたい。
「ありがとうございます、早く出来る様に頑張ります!」
「うん、優秀な後輩が居ると先輩の僕達が楽になって助かるんだよね~。 じゃ、僕は学校へ行くからもう行くね」
ヒラヒラと手を振って洗浄室から出て行った。
よし、午前のノルマは終わったし、昨日午後からランニングするような事をアルバン訓練官が言っていたから身体を休めておこう。
綺麗になった自分の分の服を持って部屋へとゆっくり歩いて戻った。
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