第7話 年少組

 部屋に戻って綺麗になった洗濯物を畳んでタンスに片付け、昨日書けなかった分の日記を書く。

 普通の内容はこの国の文字だが、日本との文化の比較や十歳らしくない内容は日本語で書いている、鍵付きではあるが万が一見られた時は他国の言葉を勉強してると誤魔化そうと思っている。

 むしろ日本の事を書いた内容を知られる事の方がヤバいと思う。


 壁掛け時計が十時二十分を指したので中庭へ向かう、十二歳以上は学校なので集まった新人は三人しか居ない。

 その内の一人は当然アルフレートだ。

 さっきから睨みつけてくるのに話しかけてくる事もないのでスルーしてもう一人に話し掛ける。


「俺はクラウス、よろしく! 君の名前は?」

 握手をしようと右手を差し出して言うと、にこやかに握り返しながら

「僕はライナー、商家の三男坊さ」

 商家と聞いて納得の愛想の良さ、俺より身長が十五センチ程高いからアルフレートと同い年かな、俺と同い年だったらツライ。


 ストロベリーブロンドと薄い青い眼という、どこのヒロインだと突っ込みたくなるような髪と眼の色、幼さの抜けない可愛さを併せ持っている。


「ちなみにあっちで俺を睨んでるのがアルフレートだ」

 きっと自分から挨拶なんてしないだろうと思って、親指で指差して教えておいた。

 アルフレートの目付きを見て苦笑いしながら、「よろしく」とライナーが挨拶すると無愛想ながらも頷いて返していた。


 そうしている内にアルバン訓練官が名簿を持って現れた。

「えーと、顔と名前把握するから名前を呼ばれたら手を挙げてくれ。 アルフレート、…クラウス、…ライナー」

 名簿をチェックしながら名前を呼び、俺達は呼ばれたら手を挙げる。

「よし、クラウスが最年少の十歳だな、とりあえずどれだけ体力があるか確認したいから、身体を解したら三人共中庭を何周できるか力尽きるまで全力で走ってもらおうか」

 と、恐ろしい事を笑顔で言われた。


 短距離走の走りで力尽きるまでって…、鬼か!

 内心血の涙を流しながらストレッチをする、ライナーがストレッチ方式をよく知らない様だったので教えながら二人一組のストレッチもした。

 チラチラとアルフレートの視線を感じるが何も言ってこないのでスルーした。


「準備は出来たか?」

 鬼の声が聞こえた、トボトボと地面に引かれたスタートラインに立つ。

「じゃあ頑張れよ、 始めッ!」


 パンと手を叩いたのを合図に一斉に走り出す、身長差もあってか俺が少しだけど一番遅い。

 だが時々兄様に見てもらいながら、普段から自分でも鍛錬はしていたので体力はある方だと思う。

 三周走るとライナーのスピードが格段に落ちた、上に三人の兄がいるアルフレートは普段一緒に鍛錬しているのか、まだスピードは落ちていない。


「はぁ、はぁ、も…もぅ、無理…!」

 四周走ったくらいで脇腹を押さえたライナーが脱落した、普段から鍛えてないなら頑張った方だろう。


 六周走った時点でアルフレートのスピードが落ちてきた、正直俺も限界だ。

 走ってる最中も時々こちらをチラ見しているので、きっと俺に負けたくないんだろう、頑張って勝ってやろうかとも思ったが、七周走りきる直前で力尽きた。

 

 その後十メートル程進んでアルフレートも力尽きた、きっと意地でも俺に負けたくなかったんだろう、倒れ込んだ時に勝ち誇った様な表情をしていた。


「ははは、お疲れさん! よく頑張ったな、午前はこれで終わりだから正午になったら食堂で食事するように、一時半になったら訓練場の入り口左手にある武器置き場の前で集合だ。 お前達の武器の適性を調べるから楽しみにしてるといい、はい解散!」


 まだ倒れている俺達を放置して、ヒラヒラと手を振ってアルバン訓練官が去って行った。


 持久走で勝って溜飲が下がったのか、もうアルフレートは俺を睨まなくなった。

 正午まで日陰で身体を休めて三人で食堂へ向かい、ライナーとどんな武器がいいか話しながら食事をしていたけど、何故かアルフレートは会話に加わらず無言で俺の隣で食事をしていた。

 もしかして人見知りしているのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る