第6話 洗濯
朝食後裏庭で同室の先輩とペアで洗濯する為に昨日脱いだ服を持った同期が十人全員集まった。
入団式では緊張していたので、まともに同期の顔も名前も覚えていない。
その中で一人だけ知っている人物が居た、アルフレート・フォン・オレインブルク、伯爵家の四男で俺より一つ上の十一歳。
親が伯爵同士という事もあり、四歳くらいから家族ぐるみで交流があるが、現在は呪詛をかけそうな眼で俺を睨んでいる。
幼少の頃の俺はブリジット姉様の希望で髪を伸ばして男が着るにはちょっとヒラヒラした服を着せられていた、ベタな展開だが女の子と間違えて四歳の俺に一輪の花を渡したのがアルフレートだ。
俺が男と知って以来、顔を合わす度に「初恋を踏みにじった」「髪を伸ばして女みたいで紛らわしい」と難癖をつけてきたので八歳のある日、俺はキレてアフルレートの目の前で縛ってあった髪をテーブルにあった果物ナイフで結び目の上からザックリ切り、髪の束を投げつけてやったのだ。
その時えらくショックを受けた顔をしていたが、その日から文句を言わなくなったが恨みがましい眼でじっと見てくる様になった。
きっとブリジット姉様からたっぷり文句を言われたに違いない。
睨まれるのはいつもの事なので放置して訓練官の話に集中する。
「よし、皆集まったな。 俺はアルバン三十六歳の訓練官だ。 お前達がウチの長男と同じくらいの年齢だからって事で去年から訓練官の任についている。」
短い緑の髪にトパーズの様な黄色い瞳を細めて笑う、とても優しそうな人だ。
「早速だが新人で水魔法が使える奴~?」
聞かれてスッと手を挙げる、アルフレートも水属性を持っているので手を挙げていた。
「ふむ、今年は三人か…。 この三人は
先輩達が桶を新人達の前に置く。
「水魔法使えるやつは皆の桶に水を半分くらい溜めてくれ」
その言葉に水魔法が使える先輩達と俺とアルフレートはウォーターボールを唱えて次々桶に水を溜めていく。
どうやら同期の一人は属性は持っていても魔力操作ができない様だった。
「えーと、お前名前と歳は?」
「あっ、パウルといいます、十二歳です」
水を出せずにオロオロしている姿を見たアルバン訓練官に聞かれて、弾かれた様に顔を上げて答える。
「まだ魔力操作ができないのか、まぁ平民は家庭教師から習ったりする事は滅多にないもんな、学校でも教えてもらえるから安心しろ」
その言葉を聞いてパウルはホッとした様だった。
「じゃあ、同室の者は洗濯の仕方を各自教えてやってくれ、特に水魔法組は汚れの落ちる過程をしっかり見るように、その様子のイメージ次第で
桶に洗剤になる木の実を数粒入れ、先輩達が揉み洗い、振り洗い、擦り洗い、足で踏み洗いなどの洗い方を教えてくれる。
正直汚れの落ち方のイメージは前世の洗剤CMのCGを思い出せば完璧だと思う。
「サミュエル先輩、ちょっと
「お、やる気だな、いいぞ試してみろ」
コッソリと先輩に相談してみたら、意外にあっさり許可してくれた。
イメージするのは酵素の力で汚れを浮かせて繊維の奥までキレイに…と、水の性質を変える様に魔力を練り込んで水を弾き飛ばして乾燥までするように…。
「
ホワリと仄かな光が衣類を包み込む。
「おお、スゴイじゃないか! 一発で成功したな!」
パサリと腕の中に落ちて来た衣類は靴下の落ちにくい汚れすら綺麗になって乾いていた。
サミュエル先輩は自分の事の様に喜んでくれて、それがとても嬉しかった。
「お、もう
アルバン訓練官が気付いて褒めてくれた。
「とりあえず魔法は覚えるまでイメージと練習あるのみだ、水魔法使えない奴も洗濯の仕方をしっかり覚えておけよ、じゃないと将来的に朝イチでパンツだけ
ああ、第二次性徴期の朝の生理現象ですね、学校に通えば可愛い女の子も沢山いるだろうし。
俺にはまだ先の事だろうから気付かないフリしとこう。
何人かが首を傾げていたので、それに倣って俺もキョトンとした顔で首を傾げておいた、だってまだ俺自身は性教育されてないもんね。
「さ、もう九時半になったから学校へ行く者は片付けて向かう様に、それ以外の者は十時半まで休憩したら基礎訓練をするから中庭に集合だ」
パンパンと手を叩いたアルバン訓練官の合図で各々片付けや移動を始める、俺も片付けたら部屋でゆっくり休もう。
学校は少々離れた屋敷から通う貴族もいるので十時からとちょっと遅めの時間に始まる、日本の学校より教科が少ないせいもあるのだろう。
騎士寮から徒歩十分程なのでまだ先輩達も余裕そうだ。
学校へ行く先輩を見送り、
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