一章 打診
「私を、ですか?」
「ああ、その通りだ」
その疑問に深く頷きを返す、
師父は梅華閣に推挙したい者はいないかと本山の門人に聞かれ、私の名前を出したそうだ。
勿論、陶師父が仰った意味は理解している。
だが、私には果たさなければならない
本当のことを言えば、一、二年程したら
「師父、大変、有難いお話しではありますが、私には不相応な評価であると存じます」
「
悲しそうな表情を浮かべた後、顔を腕の裾で隠す師父。
茶目っ気があると言えばいいだろうか。
「私も何度もお話ししておりますが、天下第一の槍の名手である
互いに譲らず、話しは平行線へ。私がニコニコして見つめていることに師父が気付いたのか、チラっとこちらを見たあとにため息をつく。
「相変わらずだな。その頑固さは誰に似たのだか。…
「ですが…」
陶師父はまだ、何か言おうとする自分を手で遮る。
「私が酒の席で自慢し…んん!推薦してすぐに五長老の一人がお前をご覧になったのだ。確かな才を持っている事をその時、五長老のうちのある御方が確認されておられる。だから、私の一存では無いし、覆せるものでも無い」
「師父、聞こえてますよ?酒の肴に弟子を使われたのですか?いつ頃ですか?本当にいつの間に。私はこの1ヶ月程、外界に出ておりませぬ」
「優秀な弟子を持ったら自慢したくなるのが師の
そこで師父は言葉を止めた。私に教えて良いものか迷ったのだろう。少し、右斜め上を見つめて、顎に手をあて、考える仕草をした後、話しを再開する。
「悟りに至った後も武への飽くなき探求を行っておられる方々だ。どなたとは言えないが、独自に編み出した※
「
亀息大法とは
「御方は襲ってきた刺客が使ったものを見て、真似たら出来たと仰っていたからな。五長老になった後、覚えたそうだ。使える事を知っている者も殆どいないだろう」
「なんとまぁ、型破りな」
天才とは変わっている者が多いとよく聞く。
「お主に自分と似たような空気を感じたそうだ」
「言葉も御座いません」
自分はそんな天才のような者ではありませんが。
「まぁ、つまりはそういうことだ。入閣は一週間程の準備を頂いている。2日ほどで準備をしてくれ。準備が終わったら、私に教えてくれ」
薄々、わかっていたことだが、これは断れない申し出である。より自分を鍛える為にはかえって良い選択なのだと自分に言い聞かせる。
「…承知致しました」
だが、果たして、仇である王聖華を見た時、平常心でいられるだろうか。
武侠転記 Yoru @Issh
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