嘘の代償⑦




放課後



雷は一人、帰ろうとランドセルを背負う。 教科書を学校に置いたままのクラスメイトも多い中、雷は律義に持って帰るためズシリと重い。


「お、雷はもう帰るのか?」


雷に話しかけてくるクラスメイトが求めているものは、真面目な回答ではないということをよく分かっている。


「んー、まぁ帰るっていうか、このまま冒険に行こうかなと」

「冒険?」

「そう、隣町まで。 どうやら、動物園のライオンが逃げ出したみたいでさ! 俺の相棒として、捕まえに行こうと思うんだ」

「それ、冒険っていうのか・・・? もし人手が必要なら、僕が手伝ってやろうか。 きびだんごが必要だけどな」

「きびだんごは手持ちがないなー。 家に帰れば、きびだんご専用の冷蔵庫に百万個くらいはあるんだけど」

「はは。 じゃあ、駄目だな」


それだけを言うと、どこかへ行ってしまった。 グローブを持っていたので、ソフトボールでもしに行くのだろう。 友達と合流し、楽しそうに話をしている。


―――・・・さて。


ただ雷も、全く用事がないというわけではない。 隣町に行くというのは嘘だが、今は行きたい場所があった。


―――裏の山か。 

―――どこに何があるのやら。


特別に何かがあるという話は聞いたことがない。 カブトムシやクワガタがいるというわけでもないし、遊べる公園があるわけでもない。 

強いて言うなら、夏に蝉を取りに出かけるのを聞くというくらいだろう。 雷自身、気にはなったが特別期待していたわけでもなかった。 


雷は外靴に履き替えると、正門とは逆の方向へ歩き始める。 理科の実験で極まれに使用する裏門を通って、山へと歩いた。


―――何もないけどな。


流石に道でもないところから入る気にはなれない。 周りにある通る道を歩きながら、山を眺めて歩いた。


“妙に熱心じゃないか”


暇な時、こうして心の声が話しかけてくるのを嬉しく思うことがある。 まともに友達のいない自分が作り出した幻だと分かっていても、退屈はしのげるのだ。


「別に。 そうやって話しかけてくるっていうことは、お前も気になってんのか?」

“は、はぁ!? んなわけ・・・。 ・・・まぁ、多少はな”

「俺だってそんなもんだ。 移り住んだ白がどうなったのか、白のいなくなった黒がどうなったのか、気になるから」

“あの話、どう思うんだ?”

「どうって・・・。 やっぱり、白が可哀想だと思う。 結果を出しているのに、黒に分け与えないといけないだなんて」

“ほう。 だが、お前は黒側だと思うけどな。 勉強をして努力をして、それでも結果に現れない。 誰も認めようとしない”

「俺は実際に、100点を取っているし・・・」


考えても分からなかった。 自分が白ならどうしたのだろう、自分が黒ならどうしたのだろう。 頭の中でぐるぐると回る。 ただ言えるのは、像を拾わなければ二人は仲よしでいられたということだ。


―――日常は簡単に壊れてしまうもんなんだな。


そのようなことを思っていると、山から伸びる道を見つけた。 細くボロボロで頻繁に人が出入りしているとは思えないが、確かに道は道だ。


―――まぁ、行くっきゃないよな。


雷はギュッと拳を握り締めると、細く暗い道へと足を進めた。 頭上は木々で覆われ視界も悪い。 そんな山道を登り山頂間際まで辿り着くと、そこで雷を出迎えたのは三つの小さな祠だった。


「黒と白と・・・赤・・・?」


祠は、外観が明らかに色分けされていた。 もちろん雷は、裏山にこのようなものがあるなんて聞いたことがない。


―――あれに書かれていたことと結び付けるのは、無理があるかな・・・?


物語は途切れていたため、あれからどうなったのかは分からない。 だから、赤が出てくる可能性もあったが判断はできなかった。 結局雷は、手だけを合わせて帰ることにする。

特に何を祀られているのか書かれたりもしていないし、他には何も見つからなかったからだ。


「帰るかー」



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