嘘の代償⑥




放課後



真鈴は一日を終え、少しホッとしていた。 授業は幸い問題なく理解することができたし、クラスメイトも積極的に関わってくる相手はいなかった。 常に美樹がいてくれたおかげだ。


「あの子たち、何をしているの?」

「んー? あぁ、おまじないだってさ」


真鈴が聞くと、美樹はやれやれといった感じで肩をすぼめてみせた。


「何か、最近流行っているんだって。 でもおまじないどころか、本当に叶うとか言っている子もいてね。 私は馬鹿馬鹿しいと思って、流したんだけど・・・。 ありゃあ、結構気合入ってるなー」

「ふぅん・・・」


物々しい文字が書かれた紙を敷き、外国から持ってきたような像を立ててやっているのは、まるで怪しい宗教のように思える程。

気にはなったが、真鈴自身美樹意外と関わりたくなかったため、話しかけたりはしない。


「もし願いが叶うなら、美樹は何を願う?」

「えー? うーん。 やっぱりイケメンな彼氏ゲット! かなー? っていうのは冗談で、真鈴とこれからも仲よくいられますように、かなぁ」

「えぇ、そんな、私なんかと一緒にいたいって・・・。 美樹は・・・」


“こんな私と一緒にいて、嫌じゃないの?”と続く言葉が、出なかった。 今日一日を過ごし、美樹に多大な負担をかけていることは分かっている。 

おそらくは自分のために、犠牲を払っている部分もかなりあるだろう。 だがやはり、それを聞くのは怖かった。 欠片程でも否定されるのが怖かった。 

そんな不安を感じ取ったのかは分からないが、美樹は笑いながら肩をパンパンと叩いてくる。


「ふっふふふふ! 私、男も好きだけど女子もいけるクチだから。 可愛い子限定だけども!」

「えぇ、何を言ってんの。 もう・・・」

「あはは。 さてさて、そろそろ帰りますか! それとも、おまじないをやりたかったりする?」

「あぁ、いや、全然。 美樹はこの後、塾があるんだよね?」


それを聞き、美樹はニヤリと笑った。


「既に予習済みだったか。 ウチは真鈴みたいに頭よくないからねー、ごめんね! また明日、迎えに行くから」

「うん、ありがとう」


美樹とは校門でお別れ。 何度も“気を付けて”と念を押され、別れ際は悲しそうにブンブンと手を振ってくる。 

進学するのも真鈴と同じところへ行きたいと言うし、本当に感謝の気持ちでいっぱいだった。 だが、彼女は本当にそれでいいのだろうか。


―――・・・もし、逆の立場だったら?


同じようにできるのか分からない。 ただ一つ言えるのは、美樹が自分と立場が逆になったら、同じようにするということだけだった。



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