第8話救災者

案内するといっても談話室は、すでに目と鼻の先だ。

と言うのも、玄関から一番近い部屋が談話室なのである。


部屋の中に入ると、机の上からティーカップとティーポットが出てくる。

もちろん紅茶入りだ。

魔術ってこんなこともできるのか。

万能すぎ。


「...いやあ疲れた疲れた。ところで、お前さんたち。一体全体どうしたんじゃ?そのような似合わぬ格好をして...。」


老人が爆発した時に備えるために、メグから半ば強引に甲冑を着させられた。

軽い素材を使っているらしく、動きの妨げになることはない。


「お、お前が暴走した時に備えているんだぞよ。...万が一の事があっても、これで死なないぞよよ。」


「そこの黒髪のお嬢さん。残念ながら、その甲冑は無駄だじゃよ。ワシの魔術によって起こされた爆発は、ちと普通の爆発とは異なっていてのぅ。全ての物質の“堅い”という概念そのものをなかったことにするんじゃよ。すまんのぅ。」


甲冑は意味ないよってことか。

それなら、着てるだけ無駄だな。


「ちょっ、ちょっと!ルルロア!なんで甲冑を脱いでいるぞよか?危ないぞよよ。」

「だってそこのおじいさんが無駄だって言ってたし....。」

「そんなのハッタリに決まっているぞよよ。...大体、魔術を概念そのものに干渉させるということは、相当な魔力量を有していないとできないことぞよよ。...それも“救災者たち並”の魔力量をね...ぞよ。」


救災者。

人の身でありながら、魔術の根源にたどり着いた者たち。

それ故に彼らは人間でありながら、人の道を踏み外し、人の存在を超え、そして神そのものになったのだと言われている。


よく、お母様が読んでくれたおとぎ話の中に、でてきた人たちだ。

ある話では正義の味方になったり、違う話では悪役になったりしていた。



「...これを見てくれれば、わかるじゃろう。」

そう言うと手袋を外して、右手をさらした。


異様な光景に目を疑う。

明らかに人の手ではないのだ。


まるで悪魔の手のような形をしている。


「そ、それ...。」

驚きのあまり、思わず声がでてしまう。


「その反応も無理はないのぅ。」

「まがまがしい魔力量。自ら、彼らの―救災者の体の一部を取り込んだということぞよか。...そのような研究がまだ続いているとはな。」


その瞬間、メグからもの凄い殺気が発せられる。


「おろかな人間ぞよね!なぜそのようなことをした?」


「...移植されたんじゃよ。無理矢理な。」

「嘘ぞよ!お前をここで...!」


メグの周りから火の玉がでてくる。

完全に殺す気だ。


「メグ。なんで怒っているのかは、知らないけど、話も聞かずに殺すのはよくないよ。」

「ルルロア。お前には関係ないことぞよ。黙っているぞよね!」

「メグ!!」


ここで止めないと、絶対あとでナンバーから怒られる。

それだけは、防がないと。


「...分かったぞよ。確かに、少し冷静さを欠いていたぞよよ。すまなかったぞよな。キングバーグ。」

「...お主にもいろいろと事情があるのじゃろう。...いいんじゃよ。」

右手を手袋の中に戻す。

その瞬間、気持ち悪い感じの空気が、なくなっていくのを感じる。


「少し聞いてはくれんかね。年寄りの長話を。ワシを殺すかどうかは、それから考えてもらっても、遅くはないとおもうのじゃが...。」

老人は静かにそう言った。





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今夜、血飛沫とともに踊る 酸化する人 @monokuroooo

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