第5話隠された凶器

「出来るわけないよ!ナイフを人に向けるなんて、やったことないんだし....。」

「どうだかな?」

ナンバーが口元を歪ませる。

その狂気的な笑みには、冷たさと恐怖を感じた。

「どういう意味?」

「やったことないにしては、ナイフの持ち方が様になっているではないか。.....そういえば以前肉親を殺したと言っていたな。力の弱い少女がどうやって殺したのか、気になってはいたのだが.....。なるほど。既に人を殺す術の一つや二つ、身につけていたということか。」

そんなことまで分かるなんて。

ナンバーはすごいなぁ。


だけど油断しすぎ。

深く踏み込んで一気に間合いを詰める。

そしてすばやく右手を振りかざした。

よし。これでナイフがあたっ....

「踏み込みが甘い。」

「えっ!?」

その声を聞き届けるのと同時に目の前が暗転した。


なにが起こったのか理解できない。

気がつくと部屋の端の方まで吹き飛ばされていた。

「まだまだ未熟だが、良い動きだ。もう少し深く踏み込んでいれば、当たっていたかもしれんな。」

「うっ....。」

ひどい鈍痛が、体中を駆け巡る。

足の骨折れてるかも....。


いや、ギリギリ大丈夫そうかな。

「どうした?立てないのか?――早く立たないと死ぬぞ。」


「やりすぎぞよ。」

メグが止めに入る。

「止めないと言うのなら、お前を殺すぞよ!」

強い怒りをまとった黒い瞳でナンバーをにらみつける。

「やめて!メグ!—私は、大丈夫だから。勝算があるんだ。」

「勝算があるぞよなのか?.....わかったぞよよ。でも危なくなったら止めに入るぞよ。」



相手が油断しているところを叩く奇襲型の攻撃。

それだけが今のわたしにできること。

でももう一回同じようなことをやっても、ナンバーには通用しない。


だったら!

「ほう。勝算だと?面白い。見せてみろ。」

そういいながら、徐々に近づいてきた。

「.....ナイフを当てられれば、わたしの勝ちなんだよね?」

「ああ。そうだ。」


やるしかない。

さっきよりも深く踏み込んで距離を詰める。

「さっきと同じようなことをしても通用しないぞ?」

右手に持っていたナイフでナンバーに切りかかる。

しかし、腕をつかまれてその動きを封じられた。

「この程度で勝算か....。つまらんな。」

「それはどうかな?」

まだ自由な身である左手で殴りかかる。

いとも簡単に手のひらで受け止められてしまった。



貧弱な少女のこぶしなど避ける必要もない。

ましては脅威となることなど絶対にありえるはずがない。

そのはずなのに―。

「......どういうことだ?なぜ私の手から血がでている。」

ナンバーの手のひらから、血が滲んできた。

まるで鋭利なものからでも、刺されたかのような傷跡がついている。

「左手にナイフを仕込んどいたんだよ。“食事をするときに使ったナイフ”をね。デザインが気に入ったから、取っといただけなんだけど.....。」

小さくて細い。

だが人を殺すための鋭さは十分に備わっている。

「驚いたな。2本目のナイフとは...。なるほど。道理で一本足りなくなっていたわけだ。――フム。確かに私の負けだな。」

わざと受け止めたっぽかったけどな。

「すごいぞよね!この変態鬼畜ロリコンサディスト野郎を出し抜いてボコボコにするなんて!さすがわらわの親友ぞよな!」

なんか脚色されてる。

どちらかというと、わたしの方がボコボコにされていたような気がするんだけど。

「なんだ。その不名誉な呼び名は?まさか私のことではあるまいな?」

「自覚ないぞよか?滑稽ぞよね。」

こういうのを犬猿の仲っていうんだっけ。


「しかしルルロア。すまなかったな。いきなりあんなことをして。できるだけ怪我をさせないように心がけてはいたのだが...。」

柄にもなく、ナンバーが頭を下げている。

きれいなお辞儀だ。

「もうどこも痛くないから、大丈夫。それに必要なことだったんでしょ。別に気にしていないよ。」

「そうか....。――明日から本格的に鍛錬を開始する。今日はもう休んでいい。」

そう言い残すと、部屋から出て行ってしまった。

あんなに急いでどうしたんだろう。

仕事かな。


それに休んでもいいって。まだ昼ぐらいなんだけど。

「メグ。お腹も減ったしご飯にしよう。」

「そうだぞよね。お腹ペコペコでぞよよ~。」

わら人形もお腹すくんだ。







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