第2話真夜中の空中散歩
「......”ツー”という姓が入っているって事は、貴族の生まれか?」
「そうだよ。すごく裕福だったんだ。でもお母様以外は、わたしのことを嫌っていたみたい。捨てられちゃった。」
捨てられた。
お父様にも先生にもお兄様たちにも....。
悲しかった。
「........。そうか。余計なことを聞いたな。すまない。」
でも....
「終わったことだし、気にしなくていいよ。」
「終わったことだと....?」
「うん。みんな殺したからね。殺したら、おしまい。そうでしょ?殺し屋さん。」
終わったから。
どうでもいい。
「.........そうだな。私もそう思う。やはりお前には殺し屋の才能があるな。」
「ナンバー。それ褒めてるの?」
にらみつけながら聞く。
「もちろんだ。誇るがいい。......支度をしろ。ルルロア。少し街へ出かけるぞ。6日間も寝ていたんだ。元気が有り余っているだろう?」
6日間も寝ていたの!?
最初に言ってよ....。
わたしの背丈よりも、はるかに大きな扉を開けて外へ出る。
辺りは真っ暗だった。
身が凍り付くほど寒い。
吐く息も真っ白である。
でも夜空の星がまぶしいぐらい、キラキラしていた。
こんなにきれいだったんだ。夜空って。
その美しさに目を奪われていると
「ぼさっとしてないでついてこい。」
ナンバーからせかされた。
そういえば、どうやって街まで行くんだろう。
まさか徒歩で....?
「ナンバー。どうやって街へ下りるの?ここは、雪山の頂上でしょ?また、寒いところを歩くなんて嫌だよ。」
「心配しなくても大丈夫だ。一瞬で着く。ついてこい。」
言われるがままついて行く。
「ここは.......。がけ?」
断崖絶壁が眼下に広がっている。
雲に覆われていて、遙か下はどうなっているのかが分からない。
飲み込まれそうだ。
怖くて足がすくむ。
「ここから一気に下ればすぐ街へ着く。....このゴーグルをはめろ。」
「なに言ってるの!?ナンバー。気でもおかしくなったの?」
こんな所から落ちれば、確実に死ぬ。
助かる見込みなんてないだろう。
だがナンバーは口角を少し上げながら
「最初からおかしい。」
と言い、わたしをすっと抱き上げて崖からダイブした。
真っ逆さまに落ちていく。
「きゃああああああっ。」
風圧で息が出来ない。
恐怖で目も開けられない。
苦しい。
どんどん下へと吸い込まれていく。
「ルルロア。目を開けてみろ。」
「目なんて.....開けられないよ!」
「大丈夫だ。開けてみなさい。」
薄らとまぶたを開ける。
すると、光が目に入ってきた。
すごくまぶしい。
「すごい。あれは.....?」
「どうだ?きれいだろ。ここから見られる夜の街の風景は、夜空の星々の美しさと相違ない。」
レンガ造りの家や大きな時計塔、行き交う車たちが街を光で彩っている。
一つ一つの光が暗闇で音を奏でている。
息をするのを忘れてしまうほどきれいだった。
「ナンバー!パラシュートあるなら早く言ってよ。いじわる。」
「何を言っている?恐怖を感じていなかったら、景色の美しさが半減してしまうではないか。」
ナンバーの顔がニヤリと歪む。
「......あとさ。なんで街に直接下りなかったの?」
街の外に着地したせいで、少し歩かなくてはいけない。
「私もそうしたかったのだが、仕方がなかったのだよ。目立ってしまうからな。....ごちゃごちゃ言ってないで歩け。」
「やっと着いた!3時間くらいかかったんじゃない?ナンバー。」
ヘトヘトとまでは行かないけど、疲れた。
「大げさだ。まだ20分くらいしかたっていない。ほら。これを飲め。」
ナンバーから飲み物を手渡される。
(ゴクゴクッ。)
「おいしい!なにこれ?」
口の中でブルーベリーの香りが広がり、脳まで染み渡る。
すっきりとした甘さは、疲れを吹っ飛ばしてくれた。
「ただのジュースだ。そんなにおいしいか?」
「うん。何杯でも飲める。」
ゆっくりとした時間がすぎていく。
「ちょうど橋のあたりに黒い看板を掲げた店が見えるだろう?休憩が終わり次第、あそこに行く。」
ナンバーが指をさす方向を見る。
あの店か。居酒屋さんっぽいけど何の用だろう。
店に入ると気前のよさそうなおじさんが、出迎えてきた。
「はいよー!お客さん!ご注文はなんにしますか!」
「角砂糖の入ったコーヒーを少々。できれば、ミルクチョコレートもお願いしたい。」
なんで居酒屋さんでコーヒーを頼むんだろう。
疑問に思っていると突然、店主が扉の前のOPENとかかれた看板をひっくり返してCLOSEにし始めた。
「まいどー!ではこちらへどうぞ....。」
そしてわたしたちを店の奥へと案内する。
「変な物がたくさん.....。ナンバー。ここは何?」
周りにはいろんな薬品やホルマリン漬けにされた生き物、幾何学的な模様が施された人工物などの多種多様なものが並んでいた。
「ごく普通の道具屋だ。お前に必要な武器を作るための材料を、調達しにきた。」
「わたしに必要な武器の材料.....?」
「そうだ.....。お前はまだ体が小さいし、力ももってない。弱いお前が身を守るためには、武器が必要だ。..........材料は自分で選べ。その方がいいはずだ。」
そう言うと、ナンバーは店主と話を始めてしまった。
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