眠れなかった夜に

 朝七時に目が覚めた私が、一番最初にしたことは、コーヒーメーカーのセットだった。

 決して高いコーヒー豆ではないし、挽き立てでもないが、インスタントコーヒーの味に比べると、私はそれがお気に入りだった。


 朝はあまり起きたくない。誰でもそうだろうか。けれど、どうしても眠れない夜に、何度も何度も目が覚めてしまう夜に、空が明るくなっていくことを知らせる窓を見ると、やっと朝が来たのかと、ほんの少しだけほっとしたのだ。


 聞き分けの悪い私と、誰かのしゃべり声が交差して、眠れない夜に歌われた有名なアーティストを思い出す。


 親はまだ起きてこない。早寝になった父親も、雨の音に揺られてか、今日は起きてはこなかった。誰も来なかった。私の空っぽさを見抜いたのだろうか。カーテンはわざわざ開けはしなかった。


 もう、春は通り過ぎた。初夏が顔を見せている。冬から春にかけてやってくる、私の憂鬱になる気持ちも落ち着いてきた。

 夏の前の、爽やかだけれど少し蒸す風に乗って、少し遠くへ行きたかった。

 眠れる場所を求めて、私は飛んでいきたかった。

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