眠れなかった夜に
朝七時に目が覚めた私が、一番最初にしたことは、コーヒーメーカーのセットだった。
決して高いコーヒー豆ではないし、挽き立てでもないが、インスタントコーヒーの味に比べると、私はそれがお気に入りだった。
朝はあまり起きたくない。誰でもそうだろうか。けれど、どうしても眠れない夜に、何度も何度も目が覚めてしまう夜に、空が明るくなっていくことを知らせる窓を見ると、やっと朝が来たのかと、ほんの少しだけほっとしたのだ。
聞き分けの悪い私と、誰かのしゃべり声が交差して、眠れない夜に歌われた有名なアーティストを思い出す。
親はまだ起きてこない。早寝になった父親も、雨の音に揺られてか、今日は起きてはこなかった。誰も来なかった。私の空っぽさを見抜いたのだろうか。カーテンはわざわざ開けはしなかった。
もう、春は通り過ぎた。初夏が顔を見せている。冬から春にかけてやってくる、私の憂鬱になる気持ちも落ち着いてきた。
夏の前の、爽やかだけれど少し蒸す風に乗って、少し遠くへ行きたかった。
眠れる場所を求めて、私は飛んでいきたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます