やさぐれた猫
ネコは寝転んでいた。縁側でぐったりとした様子で寝転んでいた。まったく、ぐったりした気分ではなかったが、ふてくされていたのは確かだ。正直な話、やさぐれたかった。けれどネコは知っている。
もともとは「家出する」という意味があり、「やさ」は「鞘(さや)」の隠語、反転語で「刀が収まる筒→自分の収まるところ=自分の家」、「ぐれ」は「外れる」という意味の言葉で、「家から外れる」ということは「家出する」、という意味なのだ。そう、ネコはそこそこの知識を持っていた。ネコは、家出するほどではなかった。ただただふてくされて、寝転んでいたかったのだ。
庭に、ヒマワリの花が咲いている。カンカン照りの日差しは、ネコは嫌いだった。元気のよいヒマワリには、特に悪意はないが、なぜこうも咲いているのかとちょっと横目に見ている。飛んできたカナブンに、尻尾を振った。
散歩の犬が吠えているのに、耳をふさぎたくて寝返りを打った。茶の間でお茶を飲んでいるおばあさんを見た。ネコは、このおばあさんが好きではなかったのだ。
世話ばかり焼いてくれるこのおばあさんを、どうしても好きになれなかった。ネコとしては、適当でよかったのだ。適当に相手をしてくれていたら、ネコはそれでよかったのだ。おばあさんのお茶にはなりたくなかった。けれど、このおばあさんを放ってどこかへ行けるほど、ネコは薄情でもなかった。中途半端なネコだった。その分、ネコはふてくされた。歯の隙間に残ったツナを、舐め上げて、ネコはしっぽを振りながら、目をつむって、何もなかった気になる。
ネコは、寝転んだまま、やさぐれていた。やさぐれたネコだった。
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