第14話

「な、何を言っているんだ! 君は罪人じゃない!」

「いいえ、罪人です。今だって無許可でこうして城まで来てしまいましたから。行きましょう、フェンリル」

「うん!」


 私はフェンリルにそう言ってから、城に背中を向ける。

 すると、ウェンリー王子がこちらへとやってきた。


「ま、待て! ふぇ、フェンリルとともに隣国にいかれてしまったら、国の力関係にまで影響を与えてしまうだろう!」

「私には関係ありませんわ。それでは」

「た、頼む待ってく――!」


 私のほうに駆け寄ってきたウェンリー王子を、フェンリルが人睨みした。

 

「邪魔しないで。僕のご主人様の決定なんだから」

「……」

 

 ウェンリー王子はヘナヘナと体から力が抜けたようにして、その場でぺたんと座る。

 ……これで、すべて終わった。


 私は晴れやかな気持ちとともに、皆が待つ王都の外へと向かったのだった。



 〇



 私は家族とルフェルとともに隣国へと向かう馬車に乗りこんだ。

 

「良かった、アルフェアちゃん。無事ね?」


 母が私を見て、涙を流す。その抱擁を受け入れ、私も自然と口元が緩んだ。

 ……またこうして再会できるとは思っていなかった。

 これもすべて、フェンリルのおかげだった。


 そのフェンリルは今、小さな狼となって私の隣にいる。

 母と父と一度抱擁をかわしてから、私はルフェルを見て頭を下げた。


「ありがとうございます、ルフェル様。あなたがいなければ今の私はいません」

「私は何もしていないさ。すべてはキミがこれまでに生きて来た行いが招いたことじゃないのかな?」

「……そんなことはございませんわ」

「そんなことはあると思うよ。ねえ、フェンリル様」


 ルフェルがそう問いかけると、フェンリルは首を傾げていた。


「そうなんじゃないかな? 少なくとも僕は、小さい頃にアルフェアに助けてもらったから、契約しようと思ったんだよ」

「……そういえば、あなた。私が幼い頃に契約した、といっていたわよね? そんなことって可能なの?」


 だって、精霊契約は15歳を超えてからだったはずだ。

 そうじゃないと、精霊契約はできないって聞かされていたんだよね。


「完全な契約はできないけど、仮契約はできるよ。予約だね」

「……そうなのね」


 それは知らないことだった。ルフェルが目を見開いていた。


「……まさか、精霊との契約にそんなことがあったなんてね。これも、アルフェアのおかげだよ」

「……いえ、フェンリルのおかげよ」


 私は小さくなったフェンリルを抱きかかえ、膝にのせて背中を撫でる。

 柔らかな毛皮だ。……もふもふで、ずっと触っていたくなる心地よさね。


 馬車はゆっくりと進んでいたのだが……途中で止まった。


「ま、魔物が出現しました! これより討伐しますのでお気をつけてください!」


 御者からの声が聞こえた。

 ……魔物、か。外を見てみると、結構な数の魔物がいた。


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