第13話
フェンリルの言葉に、リンダは顔を青ざめていた。
「な、何を言っているのですか……フェンリル様」
「君の体から、あの魔法陣を弄った魔力と同じ魔力を感じるんだ。君、あの時魔法陣に悪戯したんだよね?」
冷静ながらもその声には怒りがはらんでいるように感じた。
「そ、それは……」
リンダは言葉を詰まらせる。困惑した様子で、ウェンリー王子がこちらへと向かってきた。
「今、あの魔法陣はリンダによって弄られて正常に機能していないんだよ。おそらくだけど、今後もずっとその調子で満足に契約の儀は行えないだろうね。何も調べてないの?」
「なんだと!? す、すぐに調べさせろ!」
驚いた様子で王子が声をあげる。……リンダ、まさかあの魔法陣を弄っていたなんて。
彼女の顔がどんどん青ざめていくのを見るに、どうやら本当のことらしい。
「け、契約の儀ができないって……それじゃあ精霊たちはどうなる!?」
王子が声を荒らげると、フェンリルがすぐに答えた。
「来年からは精霊と契約できないと思うよ。まだ数十年は今の精霊がいるから大丈夫だと思うけど、その先は……どうかな? 精霊魔法に頼らない生活が必要になると思うよ」
フェンリルの言葉に、王子は顔を青ざめていた。
「ふぇ、フェンリル様なら直すことはできるのですか?」
「僕しか無理だと思うよ」
「な、直してください! お願します! 精霊がいない世界などで生きていけるはずがありません!」
ウェンリー王子が頭を下げた。フェンリルがちらとこちらを見てきた。
私の返事を待っているようだ。
「フェンリル、直す必要はありません」
「わかった!」
「な、何を言っているんだアルフェア」
「それは私のセリフです。私は散々――」
あなたに酷いことをされたのだから……。信じてもらえなかったことがどれだけ苦しかったかを伝えようとした瞬間だった。魔力が溢れた。
「精霊魔法――!」
それは、リンダからだった。彼女は狂ったような笑みとももに、こちらへと片手を向ける。
「け、契約者が死ねば……っ! 精霊との契約だって切れるでしょ!?」
「……何を言って」
リンダは……私を殺すっていうの? 彼女はすぐに精霊魔法を練り上げようとしたが、次の瞬間魔力が霧散した。
「え!? ど、どうして!? せ、精霊! なんで!? あ、あれ! 契約が……っ!」
リンダがうろたえていると、フェンリルが答えた。
「契約解除、したんじゃないのかな? ……さすがに、僕に喧嘩を売りたくはないんじゃないかな?」
「……そ、そんな――!」
そこで王子が、はっとした様子で我に帰り、声をあげた。
「……おい! 騎士たち! このリンダという罪人をすぐに牢へとつれていけ!」
「ま、待ってくださいウェンリー王子! 私は国を思って――」
リンダが必死に声をあげていたが、彼女は騎士に髪を引っ張られるようにして無理やり連れていかれる。
美しい顔が台無しになるほど泣き叫んでいたが、ウェンリー王子は見向きもしていなかった。
それから、彼はこちらへとやってきて、手を伸ばす。
「これで……すべて解決したな」
え、なにやり切った顔してるのこの人?
「やり直そう、アルフェア。オレが悪かったよ」
「……あなたは、すぐに他者の言葉に惑わされます。例えば、今回の話もすべて嘘だったらとは考えないのですか?」
「もう、大丈夫さ。これからは、キミだけを信じるよ」
「あー、そうですか。ですが……あなたはリンダの言葉を信じ、一度私に対して酷い仕打ちをしましたね? これでまた、フェンリルが偽物だったとなれば、また私を追い出し、リンダを――とあなたはその場の状況に任せた対応しかできません。本質を見極める力がまるでないのです」
「……そ、それは仕方ないじゃないか!」
私は逆切れしてきたウェンリー王子ににこりと微笑んだ。
「ですから、私はあなたと婚約はしませんよ? あなたが初めに言った通りに、私はこのまま国外へと行き、そこで『罪人』として生きようと思います。それでは」
やっと……この言葉が言えたわ!
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