第9話

 公爵家の屋敷をまた見れるとは思っていなかった。

 馬車が屋敷の前に泊まり、私は騎士とともに馬車から降りた。

 馬車を降りた私は、それからまっすぐに家へと向かう。


 ……なんだろう? 庭に隣国の馬車が止まっていた。

 ……しかも、公爵家の家紋が入っている。隣国とは仲が良いので、別に行き来自体はなんらおかしなところはないけど、何かあったのだろうか、という心配はあった。


 使用人たちが驚いたようにこちらを見ていた。


「あ、ああああアルフェア様!? も、戻ってこられたのですか!?」

「ええ……父と母はいるかしら?」

「は、はい……ただいま、アルースト家のブレット様が来られています。その、お嬢様のことで話をということでして」

「私のこと?」

「……はい。国外追放された場合、すぐにお嬢様を保護してほしいとお父様が相談していたんです」

「……そうだったのね」


 ……だから、庭に馬車があったのね。

 私が納得しながら歩いていき、それから面会室へと向かった。


「アルフェア!?」

「も、戻ってこれたのか!?」


 父と母が驚いたようにこちらを見ていた。

 彼らが涙を流して喜んでくれていて、私もまた涙がこぼれてきた。


「そ、その狼は……?」


 父と母が首を傾げていた。


「フェンリル……私の精霊よ」

「せ、精霊? ふぇ、フェンリル……? い、一体なにがどうなっているんだ?」

「も、もしかしてその子、アルフェアちゃんの精霊……とか?」


 父が困惑し、母は少し察しの良いことを言っていた。

 だから、私はこくりと首を縦に振った。


「うん……どうやら、私の契約の儀は何者かに邪魔されていたみたいなの。……それを、フェンリルが証明するために、この王都にまで戻ってきたんだ」

「……な、なんだと? 一体誰が?」

「それは、まだわからないけど。フェンリルが会ってみればわかるって言っていたわ。……だから、その。お父様とお母さまが今後どうするか、それについての話をしようと思って先にここに寄ったのよ」

「……そうだったんだな」


 父はちらと、これまで黙っていた男性を見た。

 ……彼は隣国の公爵アル―スト家の長男、ルフェルを見た。

 ルフェルは柔らかな微笑を浮かべ、こちらを見ていた。


「ご無事でよかったです。我々もあなたを保護するために全力をあげていたのです」

「……そうだったんですか。ありがとうございます。でも、どうしてわざわざ」

「――それは、オレがあなたに惚れていたからです」


 ルフェルはあっけらかんとそう言ってみせた。

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