第8話

 馬車に再び乗り込んだ私は――罪人とは思えないほどの厚遇とともに、王都へと向かっていた。

 私の膝の上では、小さくなったフェンリルがいた。


 フェンリルの背中を撫でると凄い柔らかい。……基本的には犬に似ていて、撫でられるのが好きなようだ。

 それでも、さっきのお礼もあるので、撫でる手を止めることはしなかった。


「昔撫でてもらったときもそうだったけど、落ち着くなぁ」

「それはいいんだけど……どうして王都に?」

「簡単だよ……僕が魔法陣を通るときに邪魔したやつがいるからね。そいつに文句をつけにいくんだ」

「……文句? それに邪魔ってどういうこと?」

「簡単に言うとね、僕は精霊界からこの人間界に来るとき、門を通る必要があるんだ。けど、なぜか……その門がすっごい狭くなっててね。通ることができなくなっていたんだよ」

「あなた体のサイズ……変えられるんだよね?」

「うん。でも……そういうのとはもっと違うんだ。たぶん……魔法陣が壊れちゃっていたのかも」

「……壊れる」


 もしかしたら、この可能性はあるかも。

 魔法陣は数十年に一度壊れてしまい、フェンリルに祈りを捧げ直してもらうのだ。

 ……ただ、壊れたときに召喚などはしたことがなかったので、どうなるかは分からない。


 あれが、壊れた時の反応だとすれば――。

 そして、私の前まではうまく召喚できていた。

 ……私の前で召喚していたのは――リンダ。


 彼女が、もしかしたら魔法陣を破壊する手段を見つけ、何かしたのかもしれない。


「……邪魔した人がいる、のね」

「うん、だからその人に文句を言いに行くんだ。……それに、このままこの国を去るのは嫌だよね?」


 フェンリルの言葉に……私は何と答えればよいのだろうか。

 ……確かにこのまま去るのは家族に会えなくて寂しいから嫌だったわ。

 でも、どうなんだろう。

 

 ……家族以外に関して、未練はないのよね。婚約破棄された瞬間は凄いショックだったけど、リンダの言葉を信じた王子にはすでに愛なんてなかったし。


「フェンリルの力は……この国じゃなくても使えるの?」

「うん、使えるよ」

「……例えば、どこか地方でのんびり生活したいって言ったら、ついてきてくれるの?」

「もちろん、僕は君の精霊だからね」


 フェンリルはにこりと微笑んだ。


「それじゃあ、私は……家族のところに顔を出してから、王都に乗り込みたいわ」

「うん、それじゃあ。騎士さん、そういう道順でお願いね」

「か、かしこまりました!」


 ……まずは、家族にあって話をしよう。

 それから、家族と今後どうするかを話したい。

 私はフェンリルの頭を撫でながら、そんなことを考えていた。

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