第7話

「……え?」


 驚いていると、狼は私の体をなめてきた。

 ……体が大きいので全身をなめられるような感じだった。

 えっと、一体どういうことなの?


『僕の名前はフェンリル。昔、キミと契約をした精霊だよ』

「……え?」

『昔、助けてくれたよね? だから、その時に仮契約しちゃったんだ。でも、いざこようと思ったらなぜか扉が狭くて出てこれなくて……別のルートできちゃったんだ』


 フェンリルは嬉しそうにほほ笑んでいる。

 ふぇ、フェンリルって……この国を守る大精霊なんだけど……。

 本当にそうなの?


『うん。まあ、そのフェンリルは僕のお父さんで、僕はその子供なんだけどね。力はお父さんと変わらないよ』


 ……自慢げにフェンリルは口元を緩めた。

 まるで、人間が胸を張るような動きに、私は苦笑してしまう。

 その体を軽く撫でると、柔らかな感触がした。


 そして、騎士たちがこちらに剣を向けてくる。


「き、貴様! 罪人が逃走するのならば、命を取られる覚悟はあるのだろうな!?」

「……別に私は逃げるつもりはないんだけど」

『……僕が話そうか?』

「え? 私以外にも話ができるの?」

『うん』


 フェンリルはそれから、騎士たちのほうに体を向ける。

 騎士がびくりと体をはねさせたが、それでも剣を持ち直していた。ただ、剣先は震えていた。

 フェンリルは軽く吠えてから、声を発した。


「僕はフェンリル。このダイル国を守護する精霊だ。そして、僕はここにいるアルフェアの契約者でもある」

「……な、何を馬鹿なことを言っている!」

「それなら――これを見てもわかるかな。『雨よ、降れ』」


 フェンリルは落ち着いた声とともに片手を天へと向けた。

 次の瞬間だった。雲一つなかった空に、雨雲が出現する。そして、雨が降りはじめた。


「なぁ!? て、天候さえも操るおまえは……ほ、ほんとうにフェンリル様……ですか!?」

「そう。この国を管理する大精霊、それが僕だ。それで、まだ戦うというのなら、相手になるよ?」


 フェンリルがそういって、ほほ笑んだ。彼の表情はわずかに怒りを示しているようだった。


「め、めめめめめ滅相もございません! フェンリル様に逆らうつもりなど、ありませんから!」

「そっか。それじゃあ……これから王都まで護衛してくれないかな?」

「は、はいいいい!」


 騎士たちは土下座して、ぺこぺこと頭をこすりつけていた。


「やったね、アルフェア。これで王都に戻れるよ」

「……う、うん」


 ……ほほ、本当に大精霊なんだ。

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