第6話

 国外追放――。

 それはもう受け入れるしかない。

 出発の前に、私は風呂に入れさせてもらい、服装なども整えてもらった。

 

 とはいえ、つたないものであるのは変わりないのだけど。

 私は小さく息を吐いていると、騎士がやってきた。


「時間だ。これより、おまえを国境付近まで送る」

「……」


 騎士がそういってきて、私は連れていかれるままに馬車へと乗りこんだ。

 私は腰にさした剣の柄を何度か握ってから、息を吐いた。

 ……最低限の装備を渡されはしたが、精霊を持たない私が男の騎士に勝てるはずがない。


 それに、ここで暴れて逃げ出せば、家族にさらに迷惑をかけてしまうだろう。

 と、騎士がこちらに一枚の手紙を渡してきた。


「……これは?」

「リンダ、という貴族から預かっていた手紙だ」

「リンダからの手紙……?」

「ああ」


 ……なぜよりによって?

 私は驚きながら、その手紙を開き、中を見た。


『アルフェア。あなたとはよき友として、よきライバルとして、これまで一緒に生活してきたわね。あなたがこんなことになって残念だったわ。まさか、あなたが裏では多くの男性と関係を持っていたようで、私も微力ながら、調べたわ。まさか、そんなにたくさんの男性と関係をもっていたなんてね。ウェンリ―王子は大変心を痛まれていて、今は私が王子のために誠心誠意つくしているから安心するといいわ』


 ……リンダ。

 直接的表現は避けられていたが、おそらくリンダがあの男たちを用意したので間違いない。


 ……その理由は、ウェンリ―王子と私を引きはがすため――。

 そして、自分が新たな婚約者として名乗りでるためなんだろう。

 ……つまり、私はまんまとはめられてしまったわけだ。


 私は異性と関係なんて持っていない。今この瞬間だって、清いままだった。

 ……でも、どうして精霊が召喚できなかったのだろう?

 

 可能性があるとすれば、あの魔法陣に何かが仕組まれていたということではないだろうか。

 ――このまま黙って国外追放されるしかないのだろうか?


 何か、他に手があればいいんだけど。

 そんなことを考えていた時だった。

 馬車が急に止まった。


「何事だ!?」

「わ、分かりません! 狼が――!」

「……狼?」


 慌てた様子で騎士が外に飛び出した。私を見張っていた騎士がいなくなり、逃げるチャンスではあったが……手かせ足かせはつけたままだ。

 私も気になって外に顔を出すと――驚いた。

 

 馬車を押しつぶすようなほどに大きな狼がそこにはいた。

 外に出た騎士が剣を構えていたが、その体は震えている。

 ……だが、私はその体を良く見て気づいた。

 

 魔物、じゃない。これは……精霊ではないだろうか?

 その体は確かに半透明だった。しかし、こんな精霊聞いたこともない。


『――見つけた。僕のご主人様』


 そんな声が聞こえた。懐かしいようなその声に、私は首を傾げる。

 騎士が剣を振りかぶり、狼へと飛びかかった。しかし、狼は軽く吠えた。

 その咆哮によって、騎士の体が吹き飛ばされた。


 騎士たちはすっかり戦意を失ったようで、腰を抜かしていた。

 すると、狼はゆっくりとこちらにやってきて――そして私を馬車から取り出した。


『ごめんね、遅くなっちゃって』


 狼の声が私の頭の中に響いた。

 同時、私の手枷と足かせに柔らかな風が吹き手枷足かせを破壊した。

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