第5話
――臭い。
私は馬車に乗せられ、どこかへと連れていかれた。
そして今は、牢屋の中だった。
今日で十日目となっていた。
普段は清潔にしていたが、この牢屋でそんなことができるはずもない。
トイレは部屋にあるし、風呂にだってもちろん入ることはできない。
色々と取り調べを受けたが、それでも私は自分が無実であることを言い続けた。
その時だった。ガチャリと牢屋の扉が開いた。
「立て」
騎士がそういって、私は立ち上がった。
……食事こそ与えられていたが、最低限のみだ。
そのため、ふらりと体が傾く。喉も乾いていて、思考も鈍っていたけど、それでも私は必死に気を引き締めなおした。
「これからまた取り調べですか」
「黙ってついてこい」
どうやら、いつもと違うようだった。
私は騎士の後をついていく。……そうしてたどり着いたのは、裁判所だった。
「……どうして、ここに?」
「いいから中へと入れ」
騎士に背中を押され、私は手枷、足枷をつけたまま中へと入った。
室内は、異常だった。
……本来裁判を行う場合、傍聴席に人を入れるはずだ。
なのに、この場には誰もいない。いるのは、裁判長とその補助と思われる男性が二名だった。
私は無理やり立たされ、裁判長を見上げる。
「これより、罪人の刑を決める」
「待ってください!」
「罪人に発言の許可は与えていない!」
裁判長が声を荒らげ、とんと机を叩いた。
……ここで、逆らっても仕方ない。私はじっと裁判長を見る。
「罪人、アルフェアよ。おまえは契約の儀の前に、他の男と関係を持ったな」
「……持ってなどいません」
「嘘をつくのはやめよ。その証拠人がいる。連れてこい」
……どういうこと?
私が驚いてそちらを見ると、奥の部屋から騎士が男を数名つれてきた。
彼らは顔を青ざめた様子で、こちらへとやってきた。
「証人よ。おまえたちはここにいるアルフェアと関係をもった、間違いないな?」
「……はい、間違いありません」
「でたらめを言わないでください! 私は、私はウェンリー王子以外とは関わっていません!」
「それならば、彼らが嘘をついているというのか!? 私は罪人であるお前の言葉のほうが信用ならない」
……それは、勝手にあなたたちが罪人と決めたんじゃない。
理不尽な言葉に怒りがふつふつと湧き上がる。
裁判長は一度息を吐いてから、私を見下ろしてきた。
「罪人よ。おまえへの罰をつげよう。……おまえは国外追放だ。もちろん、ウェンリー王子との婚約もない」
「……ウェンリー王子と一度会わせていただけませんか?」
「会えるはずがないだろう。貴様はすでに家柄も失っている。騎士たちを、すぐに準備を進めよ」
「……せめて、最後に家族に会わせてくれませんか?」
「それもダメだ。おまえの家族たちも、容疑がかかっている。ウェンリー王子を傷物にしようとしたのだからな」
私はぐっと奥歯を噛んだ。……せめて、家族だけでも――。
「……家族は、無関係です。あくまで、すべて私の独断、です」
言いたくはなかった。
だけど、そういえば、もしかしたら家族だけでも救われるかもしれない。
そう思って言ったが、裁判はすでに終わったのか、裁判長が耳を傾けてくれることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます