第2話

「ごきげんよう、アルフェア様」

「ごきげんよう、リア」

 

 寮を出た私は、通っている精霊学園についた。私は公爵家の長女であるため、皆が私を見ると慌てた様子で挨拶をしてきた。

 といっても、私はあまりそんな態度をとられるのは苦手なのよね。


 もう少し、緩くしてくれてもいいんだけど、やっぱり家の問題とかがあるから難しいみたい。


 まだ、契約が始まるまで十分に時間はあったが、すでに多くの人が集まっていた。

 基本的には学園の生徒である女性が多かったが、その女性の婚約者、あるいは家族などが姿を見せていた。


 私の家族も来ていたので、そちらへと向かった。


「おう、アルフェア。今日も元気なようでよかった」


 父が両手を広げてきて、私は軽く抱擁をかわす。

 それから、母にも同じように抱擁を行った。


「アルフェア、少し顔色が悪いかしら?」

「……そうかもしれません。やはり、今日の契約は大事ですから」

「そんなに気張らなくても大丈夫よ」

「そうよ。あなたは自慢の娘なんだから」


 父と母がにこりと微笑んでくれた。……その言葉に、多少の勇気をもらった私だったけど、それでも完全に緊張が抜け落ちることはなかった。


 第一王子の婚約者としてはもちろんだけど、私は公爵家の長女としての立場もある。

 ……改めて、失敗できないと思った。

 両親の近くでしばらく時間を潰していたときだった。周囲の人たちが騒がしくなる。


 見れば……そちらにはウェンリー王子がいた。何名かの騎士を引き連れた王子は、笑顔とともにこちらへとやってくる。

 ……さすがの美貌だ。


「……今日もウェンリー王子は素敵ですね」

「はい……とても輝いていらっしゃいます」

「……アルフェア様が羨ましいですわ」

「……そうですね。でも、本当にお似合いのお二人ですね」


 周囲がそんな話をする。……私は少し照れ臭いと思いながら、こちらに歩いてくるウェンリー王子に笑みを向けた。

 ウェンリー王子もゆっくりと微笑み、それから私の前に来て、手をとった。

 そして、軽く手の甲にキスをしてから微笑んだ。


「アルフェア、キミの契約の儀に間に合って良かったよ」

「まあ、そんな急がなくても良かったのですよ? 少し、寝ぐせがついてしまっていますわ」

「はは、すまないね。昨日はキミの契約の儀が楽しみで、あまり寝付けなくて」

「もう……体調を崩してしまわないださいね」

「もちろんだよ。いやいや、キミが一体どんな精霊と契約するのか、本当に楽しみだ」


 ウェンリー王子が口元を緩めた。


「良い精霊であればいいのですが……」

「キミならば、きっと、この国を守護する大精霊、フェンリルと契約できるかもしれないね」

「そ、それはさすがに……大げさですよ。……ですが、あなたの婚約者として、ふさわしい精霊と契約をいたしますわ」

「ああ、楽しみにしているよ。そんなに表情をこわばらせないでほしいアルフェア。せっかくの可愛い顔が台無しだ。もしかしたら、精霊も怯えてきてくれないかもしれないからね」


 ウェンリー王子はそういって、私の頬を軽く撫でる。

 その柔らかな手のぬくもりに私もようやく……心から笑うことができた。


「はい、あなたのご期待に添えられるよう、頑張りますね」


 ウェンリー王子にもう一度頭を下げてから、私は担当の教員のもとへと向かう。


 ――きっと、大丈夫だ。

 今日のために、私は自分のやりたいことを我慢して、必死に研鑽を積んできた。

 魔法に、武道、決して妥協せず、常にどちらも一位を取り続けてきた。


 それらはすべて、ウェンリー王子にふさわしい女性になるためだ。


「それではこれより、第二百回目の契約の儀式を開始する。それでは、順番に前へ来てください」


 教師がそういうと、すっと一人目が前に出る。

 契約の儀式の順番は、最後に行った学年末試験の降順だ。

 私は最後の試験でも一位を守り抜いたため、この儀式は最後となる。

 最後を任されることは不安であったけど、やれるだけのことをやってきた。

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