婚約破棄、国外追放しておいて、今さら戻ってきてほしいとはなんですか? 〜今さら戻るつもりなどない私は、逆婚約破棄をして隣国で溺愛される〜
木嶋隆太
第1話
小さな頃の記憶はあまり覚えていないというけれど、私は一つだけ忘れられないことがあった。
私は屋敷の庭で、一匹の傷だらけの狼を見つけた。
すぐに屋敷の人を呼びに行こうと思った。でもそうしている間に狼は今にも倒れてしまいそうだ。
だから私はその狼を癒すために、必死に魔力を与え続けた。魔力は人間の自然治癒力を高めてくれると聞いていたから。もしかしたら、狼にも効果があるんじゃないかって思って。
それは結果的に成功だった。
狼の体は動ける程度に回復してくれた。それでもまだ傷は治りきっていなかったから、屋敷まで連れて行くため、使用人を呼びに歩きだした私は、そこで倒れてしまった。
魔力を使いすぎた。薄れゆく意識の中で、狼が私のほうにやってきてぺろり、と一度顔を舐めたことだけは今も鮮明に思い出せた。
『僕はこの国で最高の大精霊なんだ。助けてくれてありがとう。将来、キミが契約の儀を行うとき――僕は必ずキミに会いに行くよ』
その声は狼から聞こえたような気がした。
でも、狼がしゃべるなんてそんなはずはない。
きっと夢だったんだろう。
〇
カーテンの揺れる音が耳をなで、風が頬に優しく触れる。
私が顔をあげると、そちらに一人の騎士がいた。
「アルフェアお嬢様、今日は快晴ですよ」
私の名前を呼ぶ声がして、顔をあげた。
「……ええ、そうね」
「そう緊張しないでくださいよ」
……といってもだ。
今日はリンガル王国内でもっとも大きなイベントが行われる日だった。
「精霊契約……とてもじゃないけれど、低ランクの精霊とは契約できないもの」
「……きっと、大丈夫ですよ」
精霊契約……。この国では15歳の成人を迎えた時、女性のみが精霊と契約を結ぶことができる。
精霊と契約を結ぶことで、精霊魔法といわれるものが使用でき、それは通常の魔法の数倍強い。
それによって、国に有益なことを行っていくのが、精霊契約者の仕事……。
精霊にはランクがあるのだけど、私は絶対に失敗できなかった。
私は第一王子、ウェンリー様と婚約しているんだから。ランクの低い精霊と契約してしまったら、それはすなわちウェンリー様にも迷惑をかけることになる。
緊張しない、なんてのは無理な話。緊張したって仕方ないっていうのも、分かっているのだけどね。
高ランクの精霊はより高位の力を持つ者が契約できるということになっていた。
だから私は、日ごろから自分のできることをたくさんしてきた。
だから、きっと大丈夫――。そうは思っても、やっぱり緊張しちゃうものだった。
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