第3話


「精霊よ、我が目の前に現れ、我と契約したまえ!」


 私の前の子――伯爵家の長女、リンダが、契約の儀を始めた。

 地面に描かれた魔法陣に向かって、彼女が片手を向ける。

 彼女の手から伸びた魔力が魔法陣へと伸び、それから魔法陣が強い光を放った。


 そして――光が治まったとき、そこには一体の青色の可愛らしい精霊がいた。


「……おお! これは凄い! この精霊は、Bランク精霊アクアフェアリーではないか!」


 教師が興奮気味に声をあげる。

 ……リンダが、嬉しそうにぴょんと跳ね、現れた青色の精霊をぎゅっと抱きしめていた。

 精霊というのは半透明であるが、可愛らしい見た目をしていた。


「リンダ、良かったですね」

「ええ、そうですね。あなたも頑張ってくださいね」


 にこり、とリンダは微笑んだが……私と彼女はあまり仲が良くなかった。

 私は仲良くしたいのだけど、リンダはどうにも第一王子のことが好きらしく、婚約者の私が気に入らないそうなのだ。


 順位順に並んでいたため、私の前の人たちも皆好成績を収めた人たちばかりだ。

 そんな人たちは、やはり皆それなりの高ランク精霊と契約を結べていた。

 それを見て、私は少し安堵する。


 みんながそれだけ良い精霊と契約出来ているのだから、きっと大丈夫。

 私も良い精霊と契約できるはずだ。


 でも、直前にBランクが出てしまった以上、A、あるいはSランクの精霊と契約がしたいかな? なんて思っていた。


「それでは、アルフェス・ラ・リビート。前へ」


 教師の言葉に合わせ、私は一歩前に出る。みんなが私に注目しているのが分かる。

 ……同級生が、家族が、そしてウェンリー王子が――。

 そんなみんなの期待に応えるために、私は胸に手をあて、一歩前に出る。


 足元には、魔法陣がある。そこに手をかざし、魔力を込める。

 ……そして私は――言葉を紡いだ。


「精霊よ、我が目の前に現れ、我と契約したまえ!」


 前にやっていた子と同じように――。

 魔法陣が強く光り、私は現れるであろう精霊に胸をたからせながら、光が止むのを待った。

 光が治まった。皆の期待するような呼吸が重なり、私の耳に届き――。


「え?」


 その戸惑いが重なった。

 ……どういうこと?

 私は困惑して、思わず足元を見た。


 ――魔法陣の上に何の精霊もいなかった。


 困惑、戸惑い、驚き……私の中でいくつもの感情が現れる。こんな事例聞いたことがなかった。

 どうすれば良いのか分からない。私はただ、必死に魔力をこめるしかない。


「精霊よ、我が目の前に現れ、我と契約したまえ!」

 

 先ほどのように冷静ではいられなかった。体内の血がどくどくと沸騰したように暴れているのが分かる。

 魔法陣は光を放ち、体内から魔力が抜けているのもわかる。

 だが、だが――。


「どうして……っ!?」


 精霊はいない。私は思わず嘆きの言葉をあげてしまう。

 そのときだった。


「どういうことだ?」

「なぜ魔法陣が反応しているのに、精霊がいないんだ?」

「こんなことありえるのか?」

「いやいや、おかしいだろ?」


 そんな風に周囲がざわめきだした。

 そんなときだった。一つの声がやけに、強く耳に残った。


「……確か、男が契約できないときもこんな感じじゃなかったかしら?」


 その言葉が、ぐさりと私の胸に突き刺さった。

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