第50話 ヒトの可能性 ―"I'd like to rescue you!"―

「いま助けるからね、カナタくん!」


 黒い無数の魔手に縛られ、身動きを封じられている【ラジエル】のパイロットへマナカは呼びかける。

 胸の奥底から突然湧き上がった衝動に従って、ひたすら導かれるように彼女はここに来ていた。

 その衝動が起こった際は激しい動機や目眩、吐き気に襲われたのだが――不思議と、カナタの側に近づいた今は治まっている。

 機体全体を薄らと覆う魔力や、異常なまでに冴え渡る五感に困惑しつつも、それに振り回されっぱなしでいるほど彼女は脆弱な人間ではない。

 ほのかに熱を帯びた呼気を吐き出しながら、操縦桿を握る手に固く力を込めた少女はそれを一気に前へ倒し――出撃する。


「いくよッ!」


 ライフルを腰のウェポンラックに収納し、それから抜き放った武器は一本の薙刀だ。

『巨影型』のいる戦場から飛び出した時、イオリが投げ渡してくれた彼の愛武器である。

 意識が朦朧とする中でも叩き込まれた兵士の本能に従ってそれを受け取っていた彼女は、心中で黒髪の少年への感謝を告げながら敵へと臨んでいった。


『邪魔をしてくれるな、小娘!』


【ラジエル】を侵食し、『コア』やメインコンピュータからデータを奪おうと画策していた『ベリアル』は、マナカを無視できない脅威と認識した。

 自身が座す戦車からさらなる触手を生やさせ、それをもってマナカを阻もうとする。


「人の言葉を話す新種――直接戦うのは初めてだけど、今の私なら!」


 牙のように長い八重歯の覗く口元に獰猛な笑みを浮かべ、少女は「無詠唱」での【防衛魔法】の発動を実現する。 

 ヘッドセットなしで思念による操作を成し遂げてみせたマナカ。これが自分の新たな力――赤い眼に闘志を燃やす彼女はそう自覚しながら、防壁を纏っての突進で敵の魔手を弾き飛ばしていく。


「ユキエちゃん! 君の戦術、借りるよ!」


 ユキエたちの訓練の様子を見ていたマナカは、彼女らの『プログレッシブ・シールド』での戦術を一人で再現してみせる。

 理智ある【異形】の攻撃でさえも拒む、半透明の赤き防壁。通常の緑色のもの以上に硬く、そして強烈な熱を放つ壁は、触れたそばから魔手を灰燼へと変えていった。


「次は、イオリくんの技! 薙刀はこうして――こうッ!」


【防壁魔法】を解除したマナカは薙刀を大回転させ、前方から肉薄する触手の殆どを断ち切る。

 伸び上がって上空から背後を取ろうとしてくるものに対しても、右足を軸として回転、刃を中段からはね上げさせ、敵が自身に達する前に切り伏せた。

 一回転しても走行の勢いは殺すことなく、【防衛魔法】を再展開して『ベリアル』の戦車へと突貫攻撃を仕掛けていく。


(あの戦車、ただの戦車じゃない。あそこから大量の魔力の匂いを感じる――あれが魔力を貯蓄しているのだとしたら、壊しさえすれば敵は補給の手段を失う!)


 ワームホールを出現させ、ポイントBを完膚なきまでに破壊し、火柱や黒い魔手を出してもなお『ベリアル』の魔力が尽きない理由をマナカは察していた。

 しかし『ベリアル』も彼女の狙いに感づいたのだろう、戦車の周囲に闇属性の黒い【防衛魔法】を張り巡らせた。


「やっぱ守るよね。でも、だから何だっていうの!」


 敵が絶対の砦を築くなら、それ以上の強さの破城槌で突破するのみだ。

 

「はああああああああああああッッ!!」


 吼え、猛る。

 激しく打ち鳴らされる鼓動、荒く吐き散らされる赤い呼気。戦意が呼び覚ます力が少女から『コア』へと伝播し、機体に新たな変化をもたらしていった。

 真紅の一本角が【イェーガー】の額に生え、青い炎を灯して輝く。

 赤と青が混じり合って放たれる紫紺の光に『ベリアル』が目を細める中――マナカは、【防衛魔法】の前面だけを解除して力任せな頭突きを敢行した。

 

『ヒトの鉄人形が頭で戦うとは――!?』 

「驚いた? ヒトっていうのは君たちが思ってるよりずっと、可能性に満ちているんだよ! それが私たちの底力――私たちの、希望なんだ!」


「未知」を目撃して瞠目する『ベリアル』へ、マナカは燦然さんぜんとした笑顔で言った。

 その可能性ごとヒトを蹂躙し、滅亡へと追いやろうとしている【異形】の暴虐は許さない。その強い意志を表明する少女は、『ベリアル』にとってあまりに眩しく映った。

 カナタの理想。マナカの希望。そのどちらも理智ある【異形】が持たない、多くの他者を守ろうという信念だった。

『ベリアル』たちにも理想はある。だがそれは、【異形】全体の進化を願ったり、ヒトを都合よく支配するためのものでしかなく、全体を「個」の集合体としては捉えない。彼らにとって集団は集団でしかなく、巨大な進化の潮流の一部と考えているのだ。

 ゆえに、仲間という小規模な関係性を重視するマナカたちの信念が理解できない。


『なぜ……なぜ、キミは「ヒトの女王の子」に執着する!? なぜ、一切の恐れなくワタシに歯向かう!? キミの力の源流は何なのだ!?』

「私はカナタくんが好きだから! 人間っていうのはね、好きな人のためなら何だってできる生き物なの! つがいを作らず恋もしない一等級【異形】には分かるはずもないでしょうけど!」

『ワレワレを侮辱するのか、小娘ッ!』


 分かるはずもないという言葉は、知性を獲得したことに何より誇りを持つ彼らにとって最も「効く」煽りであった。

 感情を乱してしまった――その失態に『ベリアル』が気づいた時には既に遅い。

 わずかでも集中が切れた途端に綻んだ防壁は、【イェーガー】頭部の角によって突破された。

 

『ちっ――しかし、この銀色の機体からデータさえ奪えれば……!』

「君がそんなことを言ってられるのは、カナタくんの力を知らないからだよ! 情報の世界でカナタくんの右に出るパイロットなんて、いない!」


 カナタは『パイモン』から力を奪い、電脳世界に完全に適応した唯一のパイロットだ。

 彼の心の壁の厚さはそのまま機体のコンピュータの防衛力となる。何重にも展開されたその防護壁を、ヒトの心を完全に理解していない『ベリアル』に突破できるわけがないのだ。


「だから君は、カナタくんに割いた分の時間と魔力を浪費してたってこと!」


 頭突きの一撃で戦車に風穴を穿ち抜いたマナカは、咄嗟にそこから飛び降りていた『ベリアル』を見下ろして宣告する。

 魔力タンクさえ奪えばあとは持久戦で勝てる。じきにレイやカオルたちも到着すれば、勝負は決するだろう。

 彼女が勝利を確信した、その直後。 

『ベリアル』は微笑し、こう言い渡した。


『では、君はどうだ? 君の心の壁は、そこの少年に並ぶ硬さを誇ると言えるかね?』


 刹那、魔神の最後の魔力を費やして射出される触手。

 マナカは防衛魔法をもってそれを防ごうとするが、突如周囲に湧いて出た『飛行型』の【異形】の軍勢が、完全に壁を閉じる前にその中へ侵入を果たしてしまった。

 

「しまった――!?」

 

【異形】たちは脚に、胴体に、腕に、まとわりついて離れない。

 締まりかけた壁を強引にこじ開けて次から次へと突入してくる『飛行型』は、先に到達した仲間を押し潰す勢いでマナカへ飛びついていく。

 身体全体を無数の羽虫に引っ付かれる感覚に襲われ、少女は口元を手で覆った。


「やめてっ……気持ち悪い!」


 機体がバランスを崩して仰向けに倒れる。もはや視界さえ蝿のごとき【異形】に覆い隠され、動けない。

 

「まっ、マナカ、さん……!」 

『おっと、邪魔はさせないよ。君の相手は、こちらだ』 

 

【異形】たちが【イェーガー】を貪り尽くそうとしている凄惨な光景に、カナタは悲痛な声を上げる。

 武器を構えて抗おうとする彼に対し、『ベリアル』は指をパチンと鳴らして次なる尖兵を用意した。

 間を置かず鳴り響く銃声と、少年の背中を貫く弾丸。

 乾いた呼気を漏らして振り返るカナタの視線の先にいたのは、五機の【イェーガー】であった。


「な、なん、で……SAMが、SAMを撃つ……!?」


 驚倒するカナタに、『ベリアル』はくくくくっ、と肩を揺らして高笑いした。

 状況を理解できずにいる少年に絶望を植え付けるように、彼は種明かしを始める。


『彼らはワタシが拿捕だほしておいた機体さ。くくっ、同じ鉄人形に攻撃されるとは思ってもみなかったろう?』


 対SAMの戦い方を知っておきなさい――二週間ほど前ミユキに言われた言葉が少年の脳内で反響した。

 彼女がこの状況を想定していたのかは分からないが、現実に敵にコントロールされたSAMと戦う事態となってしまった。


「SAMは、とっ、父さんと母さんが、ひ、人を守るために作ったものなんだ! そ、それを、人を傷つけるために利用しようとするなんて……!」


 溢れ出る怒りが少年を突き動かした。

 カナタは【白銀剣】を執って【イェーガー】たちを操る『ベリアル』へと急迫し、その首を落とさんとする。


「こ、このっ、悪魔めッ――!!」


 普段穏やかな少年のものとは思えない破鐘われがねのような叫び。

 機体ごとマナカを陵辱され、愛するSAMを同士打ちのために利用されたのだ。誰が怒らずにいられようか。誰が、憎しみを抱かずにいられようか。


「ぼ、僕はお前を、許さない!! ここでお前の首を斬って、二度と立ち上がれないように潰してやる!!」


 激情に心を委ね、彼は粗暴な言葉を吐き散らす。

 それを聞いて『ベリアル』は悲しげに瞼を伏せた。哀れむような声音で、魔神は呟く。


『それが対話を望んだヒトの言葉かね? キミは最初から、理想を貫くには向かないニンゲンだったのだろう』

「だ、黙れッ!! お、お、お前に何を言われようと、僕は……!」

 

『ベリアル』の防壁とカナタの剣が激突した。

 火花が鮮やかに散り、刃の触れた点から魔力の波紋が脈打つ。


「ぼ、僕、は――」


 しかし、それ以上の言葉は続かなかった。

 乾いた銃声が虚ろに響き、剣を持つ側の右肩が背後から撃ち抜かれる。

 跳ね上がる右腕を横目にしながらも、少年は空いた左手の爪を防壁へ食い込ませ、強引に破壊を試みた。

 

「り、理想を、遂げるッ……こ、ここで勝って、人がお前たち【異形】に屈さない存在だと……同じ土俵に立っているのだと、示す……!」


 戦うための大義名分を掲げ、カナタは『力』に全てを委ねていく。

 食らえ、喰らえ! ここで敵を喰らえば、月居カナタは理智ある【異形】を知ることができる。奪取した魔法を通して、『ベリアル』を理解できる。

 理解のために対話という手段を取れなかったのは悔やむべきだが、もう後には引き返せなかった。

 

「ぐあっ……!?」


 再度の銃声、機能停止する左腕。 

 両手がだらりと下がった【ラジエル】に、まともに接近戦を挑む術は残されていなかった。

 剣がなければ魔法も十分な火力を出せない。【機動天使】の魔法の桁外れな力はその武器に内蔵された『魔力増幅装置』によるところが大きく、普通に魔法を使っても【イェーガー】に毛が生えた程度でしかないのだ。


(僕は、ここで負けるのか……?)


 色濃く滲む「敗北」の二文字に、カナタは顔を歪めた。

 認めたくない。何のために自分はこれまで訓練してきたのだ。何のために『力』に目覚めたのだ。

 何も活かせないなら、力など持っていても意味がない。理智ある【異形】は彼をこう笑うのだろう――宝の持ち腐れだと。

  

 が、その時。

 銃声の連続、次いで地面を揺らす重い音に、上空へ飛び上がって退避していたカナタは視線を下げた。


「カナタ、さん……冷静になって、戦う、です」

 

 刘雨萓リウ・ユィシュエンはまだ意識を手放してはいなかったのだ。

 彼女はカナタに斬られて倒れた後も『ペインレスモード』――パイロットへの痛みの反映率を格段に落とす代わりに、操作性を著しく落とす――を起動し、反撃の時を待っていた。

 再起不能だと敵に思われているからこそ成功した一手。

 そのカードを【イェーガー】たちを倒すのに切ったユイは、最後にカナタをそう諌めた。

 先の戦闘で感情的になり、後に反省した彼女だから言えるアドバイスだった。


「ゆ、ユイさん……あ、ありがとう」 


 地上から射出される『ベリアル』の無数の触手たちから逃れるべく、縦横無尽の旋回で少年は蒼穹に白い筋を描く。

 残された力で風を切って大空を舞いながら、武器も腕も失った自分にやれることを彼は思索していた。


(――僕に今あるアドバンテージは飛べることの一点のみだ。逃げるだけじゃない、何か決定的な攻撃へと転じられる何かを探せ、月居カナタ!)


 カナタは自分に発破をかけ、迫る魔手をセンサーで感知しながら視線は『ベリアル』へ向ける。

 あの【異形】は飛べない。上空まで届く攻撃もこの魔手しかなく、魔力残量的にもって数分と考えられる。

【ラジエル】対『ベリアル』という一対一の戦闘でいえば、カナタの有利だ。

 しかし、マナカやユイを無視するわけにもいかない。彼女らはカナタの大切な仲間であり、守るべき人間だ。互いに助け合って戦う――その前提を崩せば今後の信頼関係は壊れ、A組の力は激減してしまうだろう。

 

(とにかく冷静に、勝てる一手を探すんだ。時間はない――ここで力尽きても構わない! 『力』の全てを解放して、マナカさんたちを救出する!)


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 喉が焼ききれるのではないかと思えるほどの大音声。

 魔力を生み出す脳がスパークを放ち、機体へと迸る魔力を伝えていった。

 頭が熱い。身体が『力』の大きさに耐え切れず、軋んでいる。視界が歪み、這い上がる寒気や吐き気に抗いながら、少年は命を削ってでも『獣の力』を発動した。


『――――っ!?』


 音もなく消え去る【ラジエル】。見開かれる『ベリアル』の双眸。

 魔手は目標を捕捉できず虚空を掻き、魔神は盛大に舌打ちを放った。

 カナタが用いたのは【異形】グラシャ=ラボラスの能力、透明化である。

 あれだけの数の魔手を『ベリアル』自身の意思で全て操作しているとも考えづらく、動的物体を見つけたら捕捉する仕組みになっているのだろうと少年は推測していたが――どうやら当たっていたようだ。

 

(黒い手の追跡は封じた! あいつさえ討てば、この戦いは終わる!)


 魔法を一つ使うごとに、身体を襲う痛みは激しさを増していく。

 それが、本来【異形】のものであった魔法を強引にヒトのものにした代償だった。


「ぼ、僕は、人として、人を守る! そ、そして――人も【異形】も殺し合わずに済む、平和な世界を目指すんだッ!」


 絵空事と言われようが、偽善者だと蔑まれようが、構わない。

 真実を思い出した月居カナタは、ヒトと心を通わせた【異形】の存在を知ってしまった。自分にたくさんの楽しさを与えてくれた彼を思えば、【異形】の全てを憎むことはもう出来なくなってしまった。

 やる前から諦めてはダメだ。ユイが倒れる間際にカナタに勝負を託したように、最後まで希望を失ってはならないのだ。


『無為に叫んで自分の居場所を喧伝するとは――浅ましいぞ、ヒトの女王の子よ!』


 少年の信念の叫びは『ベリアル』の耳朶を打った。

 透明化を無駄にした少年を嘲笑する彼は、声のした方向へ残る魔手の全てを撃ち出す。

【ラジエル】にもう武器はない――勝ちを確信した『ベリアル』だったが、次の瞬間。


 宙の一点を貫かんとした魔手たちが、黄金の輝きに飲み込まれた。


『まさか、早すぎる。力に目覚めてから数ヶ月で、【異端者われわれ】の魔法を理解しきるなど――』


 黒い雨が降り注ぐ。

 パイモンの【反射魔法】を使いこなしてみせた少年に魔神は驚倒した。

 人の心を正常に保ちながら【異形】の力にこれほど適応するなど、彼ら理智ある【異形】たちの想定を遥かに超えている。

 彼は一体何なのだ、『ベリアル』はそう喘ぐ。【異形】が繰り返される世代交代の中で進化しているように、人もSAMとの共生の中で進化を遂げたとでもいうのか――。


『ちぃッ――』


 魔神は舌打ちとともに腕を天へ突き出し、漆黒の魔力を放散するワームホールを呼び出す。

 黒い魔手が彼の身体を捕縛する直前、その空間の狭間に吸い込まれて『ベリアル』は姿を消した。

 それと同時に、マナカにまとわりついていた『飛行型』の【異形】たちは統制を失ったようにバラバラに飛び回り始めた。


「はぁっ、はぁっ……いなく、なった……?」


 荒く息を吐きながらカナタは周囲を見回して敵影を探した。

『ベリアル』の気配は既にどこにもなく、響き渡るのは『狼人型』の吠え声と『飛行型』の羽音だけ。

 敵を逃がしてしまったと少年は唇を噛むが、悔しさを味わうのは全てを片付けた後だ。


「ま、マナカ、さん……! い、今、たっ助けるから……!」


 透明化を解除した【ラジエル】は、『飛行型』に囲まれているマナカ機のもとへと駆けつけていく。

 しかし、限界まで魔力を使った彼に余力はもうなかった。

 よろけて倒れかける彼だったが――そこで誰かがその身体を受け止めた。


「――カナタ。あとは、ボクらが」


 その声を聞いて、カナタは安心したように瞼を閉じた。

 レイたちが来てくれた。ここに残った『飛行型』や『狼人型』たちは、彼らが掃討してくれる。


「うじゃうじゃと、うぜぇんだよ!」

「まったく、数ばっか多いんだから!」


 波状剣を振り回して『狼人型』の首を落としていくカツミと、『毒銃』の連射で『飛行型』を次々と撃ち落としていくカオル。

 カツミと背中合わせに薙刀を振るうのは、イオリだ。


「皆は――もう、いないのか。マップの『巨影型』の表示も消えてるし……こいつら以外の【異形】の反応は見られない」

「詳細は後でカナタたちから聞くとして、今は『飛行型』と『狼人型』を片付けましょう」


【メタトロン】は背中から頭上まで伸び上がった砲門を上空の『飛行型』の群れへと向け、灼熱の光線で一掃する。

 小爆発の連鎖が巻き起こり、緑色の血液や臓腑が雨のごとく飛散する中、着々と数を減らしている【異形】たちを眺めてレイは溜め息を吐いた。 

 理智ある【異形】がこの場にいて、おそらくは逃げたと思われる状況。残された低級【異形】はまさに捨て駒だ。

【異形】らを哀れむつもりはレイにはもちろんないが、人と同じ知性を有しながら兵の命を平気で捨てる敵のあり方に嫌悪感を抱かずにはいられない。


(カナタは彼らの姿をどう捉えるのでしょう。【異形】との対話を提案した彼は、そこに何を見るのでしょう……)


 それから十数分の戦いを経て、『飛行型』と『狼人型』の【異形】たちは完全に討伐された。

『ベリアル』が出現させたワームホールは彼の逃亡と同時に消滅し、それ以上の敵軍がそこに襲来することはなかった。

 理智ある【異形】による『第二の世界』への三度目の干渉――月居カナタをはじめとする一年A組のエースパイロットたちの尽力によって、今回の事件は幕を引いた。

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