心と体のストレッチ 中編
私は夏姫を目の前に座らせ、その後ろに片膝立ちで座った。
「さぁて夏姫、私の番だからね」
私は目を輝かせ言う。今夏姫は弱ってるはず。ならば慰めも込めて次は私がからかう番だ。
「取り敢えず長座体前屈ね、ほら足を延ばして」
私は夏姫に命令口調で言う。こんあ言い草は初めてかもしれない。少し夏姫がどんな反応をするのかワクワクしてる。
しかし夏姫はこちらに反抗の目さえ見せずに何も言わず素直に長座体前屈の姿勢をとった。あれ?本当にこれは夏姫なの?まぁ今がチャンスだ!
「それじゃー押すからね」
私はそう言うと両手を肩甲骨辺りに、じゃなくて横から思いっきり胸を鷲掴みした。
ほんとっ黒川さんや夏姫といい胸がきれいすぎるのよ。二人ともこれ見よがしに強調してきて。そりゃー私だって女子だ。胸は気にするし、気になる。私のなんかすごく小さ、いやスレンダータイプだし。それに今は夏姫が弱ってるから何をしても許されそうだしね。案の定夏姫は何もしてこなかった。夏姫は私の行動に対してただ耳のあたりをピンク色に染めてるぐらいだ。ふふ、かわいいやつめ。
私はそれから体を密着させ、ゆっくりとしかし強く押してやった。
「んん、はぁー」
夏姫が苦しさからなのか喉の奥から乾いた声が響いてくる。もっと聞きたい。切にそう思った。私はもしかしたら自分はエス気質なのかもしれない。自分は今までそんなこと思ったことがなかったし、機会もなかった。しかしこんな状況になって初めて自分のことについて考えたら案外そうなのかなって思っちゃう。なんかちょっと楽しい。
私は普段見られない夏姫の表情や声にドキドキが止まらなかった。いや別に変な意味じゃないからね。ただ普段とは違う姿って良くも悪くも新鮮に感じるものでしょ。心の中で自分に早口で言い訳してる。誰に?…
「あ、ごめん」
夏姫が頬を赤くぷくーっと膨らませながらこちらを睨んできた。私が自分の感情に整理がつかないでいるとかれこれ三分位たっていたようだ。長座体前屈だけにしては長すぎた。
「いつまでやるの?まふゆ」
「そのーつい……」
私はか細い声で謝る。いけない、調子に乗った。私の悪い癖なのかもしれない。なにかあれば調子に乗ってやりすぎちゃう。ううう……気を付けなきゃ。
でもまぁ良かった。人とのいざこざは千鶴を抜いて初めてだったから解決できて。自分の力だけじゃないけど、そのおかげで友達のありがたみも感じ取れたような気がした。黒川さんには感謝しかない。
「夏姫、ごめんね、本当に」
「だから、あれは……」
「ううん、違うの。誰が悪いとかじゃなくてね、私の経験とか人間関係とか相手の気持ちを考えるとか、あまりにも疎かったから、だからごめん!」
私は普段喋らないから、喋ってる途中から恥ずかしさのあまり俯きながら、小さく言ってしまった。
夏姫はそんな私をいつもとは違う優しい目で見てくれ、
「そんなまふゆのこと大好きだよ」
「え?」
「いや別に深い意味はないからね」
夏姫が早口でまくし立てるように言う。顔を赤くしながら。普段言わない、ガラでもないことを言って照れてるのか。でも夏姫が私を慰めてくれるのは本当にうれしかった。
「ありがと」
私は大きくはっきりと、ストレートに感謝の言葉を述べた。何故か今なら言葉が出てくる。夏姫のおかげか私は確かに言葉がスラスラ出てきた。
「夏姫、いつも本当にありがとね。こんな私に付き合ってくれて。それから慰めてくれて。ほんと大好き」
今度はしっかりと言えた。私の気持ち。
「あぁ……うん」
しかし夏姫は少し喜んだそぶりを見せてくれたものの私から視線をそらしてまた長座体前屈の構えのまま前を向いてしまった。
まさか私のことそれ程好きじゃなかった。私が一方的に好きなだけ?親友だと思ってたのは私だけ?そうだよね……夏姫は人気者だもんね。
っていけない。今日、私は頑張れたんだ。少しは成長したよね?うん、今まで何もできなかったんだ。でも進めた。でもまだ足りない。だから悲観的にならず進もう。大好きな人達に見合うような人になるために。
「夏姫、私頑張るからね。夏姫に見合う人になるために。だから今だけは捨てないで、お願いだからぁーー」
私は泣きながら懇願する。けど夏姫は何故か笑いながら、私の考えを一蹴した。
「何言ってるの?まふゆ。まさか私に捨てられると思ってたの?」
夏姫はすごい楽しそうに言ってくる。まさかまたからかって?でもなんかいつも通りの夏姫を見てると安心する。
「そうだよ夏姫。だから捨てないでね」
「うん。絶対捨てないよ」
「よかった」
私はいつもはしない、どこか心の余裕がある満面の笑顔で答えた。
「それじゃーストレッチそろそろやめない?」
夏姫が冷静なジト目で言ってくる。でも私はやめようとは思わなかった。この状況が楽しいからね。まだストレッチの時間は少しある。次は股関節だ。さっき夏姫が泣いてしまった。でも今度は笑ってもらいたい。
「だーめ、ケガしてほしくないからね。ほら股関節のストレッチやるよ」
夏姫が素直に股を開いた。
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