心と体のストレッチ 前編
夏姫は4、5組の陽キャたちに囲まれ雑談をしていた。私は今、その中に向かっていこうとしている。普段の私じゃ考えられない蛮行だ。
そして抵抗する私と闘いながら、何とか夏姫のグループの下についた。
が、ここで後は声をかけるだけなのに思いとどまってしまった。体育館に仲良し同士の楽しそうな喧騒が響き渡る。耳には入ってくるのだが意識はせず、ただ遠い音のように思えてきた。夏姫のグループの前で呆然と立ち尽くす私。
何をいまさら私は思いとどまっているんですか。折角黒川さんのおかげでここまでこれたのにあと一歩が踏み出せない。駄目だよ、このままだといつもの私になってしまう。何か支えになるものがないと進めない。そんな自分に呆れる。
私がそうやってうなだれていた時にはもう刻一刻とペア決めの時間が過ぎる。どうしたらいいか分からない私は必死に考えた。唇をかみ、手をグーに握りながら必死に必死に。
体育館に響き渡る声が頑張って働かせてる脳に直に伝わり、駆け巡る。あぁ意識すれば意識するほど鬱陶しい。誰かお願いだから静かにしてよ。
時間の経過か、少しばかり音が静まる。そのおかげで私の頭は少し冷静を取り戻した。
お願いだから、かぁ。そういえば私は人にお願いなんてしたことなかったっけ。こうやって壁にぶつかることなんてせずに逃げてきた私だ。それに頼れる人なんていなかったし。
「もっともっと頼っていいんですよ」
黒川さんの言ってくれた言葉が脳裏に刺さる。いるじゃないか頼れる人が、私に初めて自信を持たせてくれた子が。頼ろう、黒川さんに。勿論頼ったからには何でもする覚悟で。
私は向かってきた道を逆走した。もうペア決めの時間が終わってしまう。少しばかり腕の振りを速めた。普段運動なんてしないので口から荒い吐息が漏れ出てしまう。
はぁはぁ、黒川さん。黒川さん、はぁはぁ
心の中で叫ぶ。
黒川さんの下についた。黒川さんは誰ともペアを作っておらず、体育館の隅の壁に腰を埋め、体育座りで猫の様に丸まっていた。すっごく可愛い。
「はぁはぁ黒川さん」
荒い吐息が止まらない、掠りかけている声で言った。
「ど、どうしたんですか?!大原さん」
黒川さんが膝に埋めていた顔を斜め四十五度に上げ、目を丸くしながら聞き返してきた。
「お願いします。一緒に来てください」
「え、何でですか?」
「黒川さんが必要で」
「うぅーなにがなんだが分からないけどついて行けばいいんですよね?」
「お願いします」
「分かりました」
一連の流れで黒川さんがついてきてくれることに。よし、これで頑張れる。私の力じゃできないけど黒川さんがいれば。
私と黒川さんは一緒に夏姫たちの下に走っていった。
まだ時間はあるよね。チャンスはこれで最後だ。次はいつになるか分からないし、こない場合だってある。頑張れ私。多分今が一番人生で勇気を使う時だ。ここでやらなきゃ私は一生後悔するだろう。動け私の足、私の口。
「ここで見守っててください、黒川さん。それだけで頑張れます」
私は黒川さんの目を見てお願いする。黒川さんは私のことを優しい目で見てくれて
「いいですよ」
と、たった一言優しい言葉をかけてくれた。
私の額と手から汗がにじみ出る。うううお願い私、動いて。
私は体育館の床の木目を見ながら進む。それはそれは一歩一歩。ゆっくりだけどちゃんと前に。
夏姫の前につく。私は顔をゆっくりと上げる。髪の毛が揺れる。
「夏姫、私とペアを組んでくれない?」
やっと言えた。けどそこまでは悪魔で過程で重要なのはこれからだ。私の目的は仲直り。夏姫の返答を待つ。緊張する。膝が浮き立つような感覚に襲われふらつく。
しかしそっと後ろから黒川さんが後ろから両手で支えてくれた。私は黒川さんの方を向く。そして黒川さんと目が合い、お互いに微笑んだ。
大丈夫、黒川さんがいる。私はしっかりと夏姫の目を見る。
夏姫は右手を顎に添え悩んだそぶり見せながら、こっちを向いた。そして微笑みながら
「やだ」
「え、ええ、ごめんなさい」
私は予想してた返答と違い戸惑った。そうか駄目か。ちゃんと話してなぜ怒ったのか聞いて謝りたかったのに。そうかやっぱり私は駄目なんだ。
「冗談だよ」
首を斜めに落とし、落胆して、地面の影に吸い込まれそうな私に夏姫が言う。
「え、ええ?」
今度は驚きの、え、だ。まさか夏姫は頑張った私をからかってるんじゃ。
夏姫は私の驚きの表情を見てにやにやしてる。
やっぱり夏姫は私をからかっているみたいだ。この夏姫!でもそうやってからかってくる夏姫はいつもの夏姫みたいですごく安心した。なんだろう急に肩の力が抜けた。
「夏姫、私をからかって!」
私は私の本気をからかわれた怒りの気持ちよりも夏姫が私を見て笑顔でいることの方が嬉しかった。今の言動は自分なりの照れ隠しだ。
「それじゃ、私まふゆと組むから」
夏姫が取り巻きさん達に言い放つ。さっぱりした笑顔で。顔の笑顔を絶やさずに言い放った夏姫はかっこよく思えた。夏姫、ありがとう。
取り巻きさん達は何故かにやにやしながら口々に
「よかったね」
「痴話げんか」
とか言ってる。よかった。どうやら夏姫はわたしのことを嫌いになってはいなかったようだ。
「それじゃ行こうか、まふゆ」
「うん!」
私達は二人並んで歩き、体育館の空いているスペースへ移動していった。なんだかこうやって二人で歩くと安心するな。
「黒川さんは私達と組みましょ」
「夏姫が抜けたからねー」
「え?」
黒川さんは涙目になりながら取り巻きさん達に囲まれて、連行されている。目が合ったので私はがんばってと微笑んだ。
黒川さんはさらに涙目になりながら暴れだしたので陽キャさん達に両手をつかまれてずるずると持っていかれてた。頑張って黒川さん。
私と夏姫は体育館の空いているスペースでストレッチをすることに
「それじゃ夏姫からストレッチしよ」
「分かった」
私はその言葉に従って夏姫の前に座るそれから長座体前屈の姿勢を作る。夏姫が私の後ろに片膝立ちで立ち、両手で私の肩甲骨辺りに触れている。
「それじゃーおすよ」
「おねがい」
すると夏姫はゆっくりと私を押してきた。
「意外と柔らかわいわね」
「うーん、そうかな?」
別に毎日ストレッチしてるわけではないのだが、しかし夏姫は何かのスイッチが入ったのか私を強く、そして急に押してきた。
「ちょ、夏姫何するの?」
「あれ?まだ大丈夫そうだね?」
するともっと強く押してきた。う、ううつらい。太ももの裏がぴくぴくしてきた。今にも張り裂けそうだ。
「う、うう。あ、ああ。な、なつき、、」
私は思わず声が漏れ出てしまった。あまりにも苦しかったのか声が裏返り甲高い声が小さく小さく紡ぎだされる。
「次は足を開いてね」
「はぁはぁはぁはぁ」
よ、ようやく終わった。いきなり何するの夏姫?
夏姫は私が足を開くよりも早く私の股関節と太ももの間に手を入れて、、、ちょっと夏姫そこだめ!
「くすぐったいってそこ」
「ん?」
すると勢いよく私の股を開けた。夏姫本当にダメだってそこは
、ちょ恥ずかしいって。
けど夏姫はやめるそぶりどころか手をそのまま私の股に挟みながら体で私にのしかかってきた。そうすると必然的に夏姫の胸が私の背中に、や、柔らかい。黒川さんほど大きくはないが張りがあり、形がいい。私の顔が赤くなるのがわかる。
「夏姫あたってる」
私が我慢できなくなり思わず口にする。
「気持ちい?」
「んなっ!」
思わず声が出てしまった。別に気持ちいいわけではないけど、でも夏姫からされるのはいやじゃないかな。てかまたからかわれてるよ!
「いやじゃないの?」
夏姫が楽しそうに言う。まるで私の心を見透かしたようないいようだ。ぐぬぬ夏姫。
「ばか」
くっそー夏姫め。仕返ししてやる。次の股関節のストレッチが終われば夏姫がストレッチをする番だ。
私は必死にこらえた。気持ちいのか、苦しいのかは分からないが私の頭はぼーっとし、くらくらし始めた。
「次股関節ね」
夏姫の指示に従うように私はすぐに股関節の体制に変えた。
そこまではよかったのだが夏姫は何故か私の前にあぐらで座り、私の目をじっと見始めた。
「どうした夏姫?」
私がおどおどしながら聞くと夏姫は私にそっと笑いかけ、頭を私の首の横に預けてきた。
「ちょ、ちょどうしたの?」
私はそう言いながらもしっかりと夏姫を受け止めた。首に両手をまわし。
すると夏姫は私の首の中で声をしゃくり始め、数滴の涙が私の首に流れ落ちる。私はなぜ泣いているのかは分からなかったが何をするべきかはすぐに分かった。私は両手を夏姫の背中に巻きながら、できる限り優しくなでるようにさすってあげた。
「大丈夫?夏姫。私ね、強くなることにしたんだ。夏姫とかに頼られる存在に。だからね頼っていいんだよ、もっともっと」
私は諭すように夏姫の耳元で囁いた。私の初めての友達が、ううん、大好きな親友がこんなにも悲しそうにしてたらほっとけない。もう逃げない。
夏姫は私の思いが伝わったのかこちらを向いて甘えるようにもう一回強く私を抱きしめてくれた。あぁ愛おしい。こんなにも甘えてくれる夏姫は初めてだ。私は初めて夏姫を可愛いと思った。
少し夏姫が落ち着いてきたところで私は夏姫に問いかける。
「何があったの?」
できる限り穏やかな口調で、傷つけないように聞いてみた。
「ごめんね、理由は言えないけど私が悪かったの。まふゆは悪くないの。それに私がまふゆを嫌いになるわけないじゃない」
私はそれを聞いて安心した。よかった勇気を出して。もしあのまま言わなかったら夏姫との関係は誤解によって終わっていたのかもしれない。
私は夏姫に何も話しけることなくそのまま抱くことにした。
しばらくして夏姫が
「ありがとう」
と一言言ったので私は腕の力を弱めることに。それから私と夏姫は入れ替わり、私がストレッチさせる番となった。
さぁて夏姫次は私の番だからね。
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