其の七
その教会は、湘南にあった。
海を見下ろせる高台の上にひっそりと建っている。
今日、ここで”彼女”と、そして”彼女”の式が挙げられるのだ。
この教会の牧師が、珍しく開けた考え方の持ち主で、
”愛し合う者同士なら、性別は関係ない”といい、これまでも何組か、同性同士の式を挙げてやっているそうだ。
地味な内陣は、映画なんかで観るように、ベンチのような椅子が幾つかならんでいたものの、出席していたのはごく少数だった。
俺は借り物の略礼服を着こんで、かしこまって座っていた。
(本当は面倒くさいんだがな。まあたっての頼みだし、仕方なかろう)
オルガンの音が鳴り響く。
ああ?
(随分ワープしたじゃないか。あの後はどうなった)だと?
何を言ってるんだ。
俺は別に格闘技見物に出かけた訳じゃないから、騒動の顛末を書いたところであまり意味があるとは思えんだろう。
さあ、正に大出入りが始まろうとした刹那、俺はM1917で天井の照明灯の一つを撃った。
ダーティ・ハリーやビリー・ザ・キッド(これはちょっと違うか)ほどではなかったにせよ、狙いたがわず、照明は二派の丁度真ん中の空間へ真っ逆さまに落下した。
派手な音を立てて床に飛び散るガラスの破片。
流石の強面連中も、思わず腰が引けた形になる。
全員が俺を睨み付けた。
銃撃戦、格闘戦・・・・あらゆる修羅場を覚悟した。
だが、何も起きなかった。
殺気だった空気に割って入ったのは、黒い髪を背中の中ほどにまでなひかせた、全身黒ずくめの背の高い痩せた日本人と小山のような肉体の持ち主のスラブ系と思われる外国人だった。
二人は周囲を鋭い目で見回すと、
『大事な祭りにドンパチは似合わねえぜ』と、ほとんど同時にドスの効いた声で宣言した。
すると、これまで殺気だっていた連中が、一瞬で矛を納めた。
(その二人は、それぞれのリーダーで、急を聞いて駆けつけたのだと言う)
『探偵さんとやら、乱暴だが、なかなかやるじゃあねえか』からからと笑いながら、俺の肩を叩いた時には、流石の俺も腰が砕けそうになったもんだ。
親分とボスにより、その場は収まり、かくして大吾は無事賞金を手にできたというわけだ。
さて、式が始まった。
オルガンの音がチャペルに
祭壇の前には白いタキシード姿の、宝塚の男役トップスターさながらのあづさが待っており、式は粋な牧師の進行で、滞りなく終わった。
『有難うございます』今は夫婦となった二人から礼を言われ、感激屋の大吾にはグローブみたいなデカイ手で、何度も肩を叩かれた。
まあ、なんによらず、人の役に立つってのは、悪い気はしないもんだ。
終わり
*)この物語はフィクションです。登場人物その他全ては作者の想像の産物です。
あにいもうと、そして『彼女』 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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