第83話 火暮朝香は宣戦布告をする

「というわけで1組の演劇は『ロミオとジュリエット』に決定でーす。配役とかはまた後日話し合いましょー」


 クラスの代表がそう仕切って、ホームルームが終わる。


 2年生は文化祭で演劇をやるのが恒例なのだ。


 基本的に劇の内容は、模倣かオリジナルに分かれる。うちのクラスは前者だったようだ。


 他人事っぽい言い回しなのは、例のごとくDランクの意見はほぼ聞いてもらえなかったからだが。


 無策であれこれやっても神楽坂たちを無駄に心配させてしまうだけだ。だからまずは様子見。


 折を見て俺は活躍の場を狙っていく。


 とりあえず今日は帰ろうと踵を返したときだった。


「神楽坂さん、勝負ですわよ」


「あなたは……火暮さんですか。私に何をやらせたいのですか?」


「難しいことではありませんよ。ただ人気勝負がしたいだけですの」


「人気?」


「ええ。私のクラスと神楽坂さんのクラス。どちらの演劇の方が評価が良かったか――」


「それで……何が目的なんですか?」


「そうですね……私が勝ったら神楽坂さんのSランク……私に譲ってくれませんか?」


「……はい?」


 なんと、火暮が神楽坂に宣戦布告をしたのはそれが狙いだった。


 俺は心配になったが、神楽坂に心配は無用だった。


「もしかして神楽坂さん怯んでいますの?まあさしもの神楽坂さんでもこのような賭けは――」


「わかりました。受けましょう」


「え?」


「受けると申し上げているのです。自分から訊いておいてそんな反応があるのですか?」


「い、いえ……で、では勝負の日までせいぜい演技の練習でもしておくといいわ」


「言われなくてもそのつもりです」


 そう言って火暮は立ち去って行った。


「神楽坂……」


「あ、梓くん。お待たせしました」


「大丈夫か?」


「ええ。今更ランクにこだわり続けるつもりもありませんので」


「そうか」


「それに梓くんが頑張ろうとしているんです。私も何か頑張りたいじゃないですか」


「そういうものか?」


「そういうものです!」


 神楽坂は人差し指で俺の胸のあたりを小突く。


「さ。早く帰りましょう?」


「お、おう……」


 夕日がもう沈み始めている中、俺と神楽坂は帰路に就いた。

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